むかしがたり

漁師の男の嫁になった女は、とっても料理上手。でも…「魚の女房」

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魚の女房 岩手県大船渡市

  • どうぶつふしぎ

一般向け かんじすくなめ こどもむけ

むかしむかし、ある浜辺にひとりの漁師が住んでいました。心優しい男だったので、必要な分だけ魚を獲り、獲り過ぎた分は海に返してやっていました。

ある日のこと、漁師の家にひとりの若い娘が訪ねて来ました。見知らぬ顔だったので、男は不思議に思いました。
しかも娘は突然こう言いました。
「わたしを嫁にしてください」

男はますますびっくり。とても美しい娘だったので、嫁になってくれればそれはもう嬉しい話ですが、さすがに男は断りました。
「おらはお金持ちではないぞ。暮らすのは大変だぞ。悪いことは言わないから、おらの嫁なんかになるもんじゃない。帰りなさい帰りなさい」

しかしいくら説いても引きさがりません。根負けした男は、娘を嫁にすることにしました。

娘はただ美しいだけではありませんでした。とても働き者で、貧しい暮らしでも文句をひとつも言いません。
おまけに娘が作る味噌汁の美味しいこと!
こんなに美味しい味噌汁を飲んだことがなかった男は感激しました。

大した材料もないのに、どうやればここまで美味しい味噌汁を作ることができるのだろう。男は疑問に思いました。
嫁に作り方を尋ねても、にっこり笑うだけで答えてくれません。

味噌汁

何かきっと特別な作り方をしているのだろう。その秘密を知りたい…
そう思った男は、ある日のこと漁に出掛けるふりをして、そっと家の天井に登ってみました。
そして台所の真上から娘の様子を窺ってみたのです。

ちょうど娘が味噌汁を作り始めるところでした。
ところが男はびっくりしてしまいます。娘がただの娘ではなかったからでした。顔は確かに人間の娘でしたが、なんと身体が魚だったのです。

「おまえ、魚だったのか」
男は驚いて声をかけました。
ヒミツを知られてしまった娘は、泣きながら答えました。
「そうです。私は人ではありません。あなたに助けられた魚です。
恩を返したくて人になって暮らしてきましたが、本当の姿を見られた以上は、もうここにはいられません」

娘は海辺へ走って行きました。男は急いで後を追いました。
海に着くと、娘は男に小さな箱を手渡しました。

すると突如として黒い雲が広がり、雨が降り出しました。
「もうしばらく一緒に過ごしたかった…」
ひとことそう言った娘は、海に飛びこんで魚の姿になって消えてしまいました。
残された男は、ただただ茫然と海を眺めるしかありませんでした。
あとで娘からもらった小箱を開けてみると、たくさんの宝物が詰まっていたそうな。

むかしむかし、あるはまべに ひとりのりょうしが 住んでいました。心やさしい男 だったので、ひつようなぶんだけ 魚をとり、とりすぎたぶんは うみに かえしてやっていました。

ある日のこと、りょうしの家に ひとりのわかいむすめが たずねて来ました。見しらぬかお だったので、男はふしぎに 思いました。
しかもむすめは とつぜん こう言いました。
「わたしを よめにしてください」

男は ますますびっくり。とてもうつくしい むすめだったので、よめになってくれれば それはもう うれしいはなしですが、さすがに男は ことわりました。
「おらは お金もちではないぞ。くらすのは たいへんだぞ。わるいことは 言わないから、おらの よめなんかに なるもんじゃない。かえりなさい かえりなさい」

しかし いくらといても ひきさがりません。こんまけした男は、むすめを よめにすることにしました。

むすめは ただうつくしいだけでは ありませんでした。とてもはたらきもので、まずしいくらしでも もんくをひとつも 言いません。
おまけにむすめが作る みそしるの おいしいこと!
こんなにおいしい みそしるを のんだことがなかった男は かんげきしました。

たいしたざいりょうも ないのに、どうやれば ここまでおいしい みそしるを 作ることが できるのだろう。男はぎもんに 思いました。
よめに作りかたを たずねても、にっこりわらうだけで こたえてくれません。

味噌汁

何かきっと とくべつな 作りかたをしているのだろう。そのひみつを 知りたい…
そう思った男は、ある日のこと りょうに 出かけるふりをして、そっと家の てんじょうに のぼってみました。
そしてだいどころの ま上から むすめのようすを うかがってみたのです。

ちょうどむすめが みそしるを 作りはじめるところでした。
ところが男は びっくりしてしまいます。むすめが ただのむすめでは なかったからでした。かおは たしかに にんげんのむすめでしたが、なんと体が 魚だったのです。

「おまえ、魚だったのか」
男はおどろいて こえをかけました。
ひみつを 知られてしまったむすめは、なきながら こたえました。
「そうです。わたしは 人ではありません。あなたに たすけられた魚です。
おんをかえしたくて 人になって くらしてきましたが、ほんとうのすがたを 見られたいじょうは、もうここには いられません」

むすめは うみべへ 走って行きました。男はいそいで あとをおいました。
うみにつくと、むすめは男に 小さなはこを 手わたしました。

すると とつじょとして くろいくもが ひろがり、雨が ふり出しました。
「もうしばらく いっしょに すごしたかった…」
ひとこと そう言ったむすめは、うみにとびこんで 魚のすがたになって きえてしまいました。
のこされた男は、ただただ ぼうぜんと うみをながめるしか ありませんでした。
あとでむすめから もらったこばこを あけてみると、たくさんの たからものが つまっていたそうな。