むかしむかし、秋田を流れる雄物川(おものがわ)のそばの村に善吉(ぜんきち)というじいさんが住んでいました。
ある春の日のこと、善吉じいさんは飼っていた犬のシロといっしょに、山に杉の木の育ち具合を見に出かけました。ほうぼう歩いて昼時になったので、ほどよい場所に腰掛けた善吉じいさん。弁当の握り飯を頬張ったあとは、のんびりと煙管をふかしておりました。
なんともいい陽気のせいか、うとうととし始め、そしていつの間にやらシロと一緒に寝入ってしまいます。
しばらくしたころ、すやすや寝ていたはずのシロでしたが、何かを察したのでしょう、すっくと立ち上がり、まっすぐ森の奥へ走って行ってしまいました。
またしばらくすると、今度はシロが走って戻って来ました。シロは眠っていた善吉じいさんを起こし、何かを訴えるようなそぶりをしきりに見せます。
「んん…、どうしたんじゃシロ。森に何があるんかえ」
シロに促されて森に入った善吉じいさんが見たものは、ちいさなちいさな子犬でした。
「こんな山奥に子犬がいるものかえ?」
ちょっと不思議に思いながらも、善吉じいさんは子犬を拾い上げて家に連れ帰りました。
子犬を見た孫は
「めんこい子犬だぁ」
と大喜び。善吉じいさんも孫の喜ぶ顔を眺めてにこにこしています。
ところが、子犬が家に来てからというもの、夜になると庭先にある馬小屋の馬や鶏小屋の鶏が騒ぎだすようになってしまったのです。
シロもまた落ち着かない様子で、外に向かって吠える始末。
シロが吠えているときに、外からオオカミの唸るような声がしたので、善吉じいさんは外に出てみましたが、特に変わった様子はありません。
しかし
「これはオオカミに違いない、さてはこの子犬はオオカミの子じゃったか・・・」
そう確信した善吉じいさんは、吠えるシロをなだめて、オオカミの子を外に出して家に戻り、窓からそっと様子を窺ってみました。
するとやはり物陰からオオカミがスッと出てきてひょいと銜えると、再び暗闇へと消えていったのです。
なにやら少し寂しい気分でしたが、
「これでよかったのじゃ」
と満足して、善吉じいさんは寝床に入りました。
それ以降、なぜかちょくちょくと玄関の前にウサギやキジが置かれていたり、これまでは鳥に荒らされていた畑も全く荒らされることがなくなりました。
村の人たちは、これはきっとオオカミの恩返しだろうと噂しあったそうな。
むかしむかし、秋田(あきた)を流れる 雄物川(おものがわ)のそばの村に 善吉(ぜんきち)という じいさんがすんでいました。
ある春の日のこと、善吉じいさんは かっていた犬のシロといっしょに、山にスギの木の育ちぐあいを 見に出かけました。ほうぼう歩いて ひるどきになったので、ほどよいばしょに こしかけた善吉じいさん。べんとうのにぎりめしを ほおばったあとは、のんびりとキセルを ふかしておりました。
なんともいい ようきのせいか、うとうととしはじめ、そしていつのまにやら シロといっしょに ねいってしまいます。
しばらくしたころ、すやすやねていたはずのシロでしたが、何かをさっしたのでしょう、すっくと立ち上がり、まっすぐ森のおくへ 走って行ってしまいました。
またしばらくすると、こんどはシロが走って もどって来ました。シロはねむっていた 善吉じいさんを起こし、何かをうったえるようなそぶりを しきりに見せます。
「んん…、どうしたんじゃシロ。森に何があるんかえ」
シロにうながされて森に入った善吉じいさんが見たものは、ちいさなちいさな子犬でした。
「こんな山おくに 子犬がいるものかえ?」
ちょっとふしぎに思いながらも、善吉じいさんは子犬を ひろい上げて家につれかえりました。
子犬を見た まごは
「めんこい子犬だぁ」
と大よろこび。善吉じいさんも まごのよろこぶかおをながめて にこにこしています。
ところが、子犬が家に来てからというもの、夜になると にわさきにある うまごやのウマや とりごやのニワトリが さわぎだすようになってしまったのです。
シロもまた おちつかないようすで、外に向かって ほえるしまつ。
シロがほえているときに、外からオオカミのうなるような こえがしたので、善吉じいさんは外に出てみましたが、とくにかわった ようすはありません。
しかし
「これはオオカミにちがいない、さてはこの子犬はオオカミの子じゃったか・・・」
そうかくしんした善吉じいさんは、ほえるシロをなだめて、オオカミの子を外に出して家にもどり、まどからそっと ようすをうかがってみました。
するとやはり ものかげからオオカミがスッと出てきて ひょいとくわえると、ふたたび くらやみへと きえていったのです。
なにやら少しさみしい きぶんでしたが、
「これでよかったのじゃ」
とまんぞくして、善吉じいさんは ねどこに入りました。
それいこう、なぜかちょくちょくと げんかんのまえに ウサギやキジがおかれていたり、これまではトリに あらされていた畑も まったくあらされることがなくなりました。
村の人たちは、これはきっとオオカミのおんがえしだろうと うわさしあったそうな。