【福島県】藤身ヶ滝悲恋

むかしむかし、会津若松の城下町のはずれに藤（ふじ）という若い娘がおりました。
年頃ゆえに、やはり恋をするもので、ある若い男に恋心を抱いていました。

しかし内気な藤は、自分からその男に声を掛けることなんてできません。それでも想いは募るばかり。
そんなときに、滝の向こうにある不動尊に100回通ってお願いすれば叶えてくれるらしいという話を耳にします。

これはいいことを聞いた、と藤はさっそく滝の向こうにある不動尊に出掛けて、一生懸命に恋の成就を祈りました。
毎日毎日、雨が降ろうが風が吹こうが熱心に通い、祈り続けたのです。

通い続けて100日目。祈りを捧げた藤の目の前に、突然不動明王が姿を現します。そしてこんな不思議なことを言いました。
「東山温泉の入口に行ってみなさい。そこに三つに又が分かれた古い松の木があるじゃろう。その枝に向かって石を投げなさい。石が松の枝に乗っかれば願いは叶えられよう。石が落ちたら諦めることじゃ」

藤は不動明王の言った松の木のもとへ行き、祈りを込めて石をえいっと投げてみます。しかし、なかなか枝の上に乗っかってくれません。上手く乗ったと思っても、すぐに石は落ちてしまいます。
藤は何度も何度も石を投げました。強く力を込めて投げても、そろりと投げても、どう投げても、それでもやっぱり石は落ちてしまうのです。

気が狂ったかのように石を投げ続けた藤でしたが、投げ続けて疲れ果ててしまったころ、ようやく気が付きました。
「叶わぬ恋なんだ」と。
悲しみに暮れた藤は、そのまま滝に身を投げてしまいました。

実は藤が恋した男は、急な病気で既に死んでしまっていたのでした。藤がどれだけ石を投げたところで、最初から叶わない恋だったのです。

藤を可哀想に思った村の人たちは、その滝を「藤身ヶ滝」と呼ぶようになりました。
それがいつしか「伏見ヶ滝」となり、今でも滝の水は絶えることはありません。

むかしむかし、あいづわかまつの　じょうかまちのはずれに　ふじという　わかいむすめが　おりました。
年ごろゆえに、やはり「こい」をするもので、あるわかい男に　こいごころを　いだいていました。

しかし　うちきなふじは、自分からその男に　こえをかけることなんて　できません。それでも　おもいはつのるばかり。
そんなときに、たきのむこうにある　ふどうそんに　100かいかよって　おねがいすれば　かなえてくれるらしい　というはなしを　耳にします。

これは　いいことを聞いた、とふじは　さっそく　たきのむこうにある　ふどうそんに出かけて、いっしょうけんめいに　こいのじょうじゅを　いのりました。
まい日まい日、雨がふろうが　かぜがふこうが　ねっしんにかよい、いのりつづけたのです。

かよいつづけて　100日目。いのりをささげた　ふじの目のまえに、とつぜん　ふどうみょうおうが　すがたをあらわします。そしてこんな　ふしぎなことを　言いました。
「ひがしやまおんせんの　入口に行ってみなさい。そこに三つに　またが分かれた　古いマツの木が　あるじゃろう。そのえだにむかって　石をなげなさい。石がマツのえだに　のっかれば　ねがいは　かなえられよう。石がおちたら　あきらめることじゃ」

ふじは　ふどうみょうおうの言った　マツの木のもとへ行き、いのりをこめて　石をえいっと　なげてみます。しかし、なかなかえだの上に　のっかってくれません。うまくのったと思っても、すぐに石は　おちてしまいます。
ふじは何ども何ども　石をなげました。つよく力をこめてなげても、そろりとなげても、どうなげても、それでもやっぱり　石はおちてしまうのです。

気がくるったかのように　石をなげつづけた　ふじでしたが、なげつづけて　つかれはててしまったころ、ようやく気がつきました。
「かなわぬ『こい』なんだ」と。
かなしみにくれた　ふじは、そのままたきに　みをなげてしまいました。

じつはふじが　こいした男は、きゅうなびょうきで　すでにしんでしまっていたのでした。ふじがどれだけ　石をなげたところで、さいしょから　かなわない「こい」だったのです。

ふじを　かわいそうにおもった　村の人たちは、そのたきを「藤身ヶ滝（ふじみがたき）」と　よぶようになりました。
それがいつしか「伏見ヶ滝（ふしみがたき）」となり、今でも　たきの水は　たえることはありません。