【鹿児島県】山の神と孝行娘

山の神と孝行娘 鹿児島県薩摩川内市
ふしぎ

一般向け かんじすくなめ こどもむけ

むかしむかし、ある島に気立ての優しい娘がお婆さんと二人で暮らしていました。
仲良く幸せに過ごしていましたが、生きていくにはお金も必要です。そのため、娘は隣の村まで毎日働きに出掛けていました。そこでは毎晩食事が出て来ましたので、貧しい娘にとってありがたい仕事でした。
さらに娘は出された食事を全部食べずに残しておいて、毎晩家に持ち帰ってはお婆さんに食べさせていたのです。

ある夜、お婆さんに食べさせるごはんを持って、帰り道を急いでいたところ、ぽつぽつと雨が降り始めました。
雨は次第に強くなりましたが、周りは山の峠なので小屋もありません。仕方なく娘は近くの栴檀(せんだん)の木の下に逃げ込みます。

「早く止んでくれないかのう」
雨空を見上げながら娘がつぶやくと、なにやら声がするではありませんか。もちろん誰もいません。よくよく聞いてみると、声の主は娘が雨宿りしている栴檀の木なのでした。

「おらは…もうすぐ伐り倒されるんじゃ…伐り倒されて、材木になって…そんで船になるんじゃ…
でも船が出来上って海に浮かべようとしてもな、船はピクリとも動かんのじゃ…」

娘は怖くて仕方ありませんでしたが、どうすることもできませんでした。ただただ栴檀の木の独り言を聞くしかなかったのです。

「それを見た殿様がな…『この船を動かせる者はいないか。動かせて無事に海に浮かべることができたら、好きな褒美をとらせるぞ』って…言うはずじゃ…
そうしたらお前さんはな、船の後ろに立ってな…『やーよい、どっこいせー』って声を出しなされ…
船は滑るように海に浮かぶじゃろうて…」

船

栴檀の木の独り言が終わると、激しく降っていた雨も上がりました。娘は急いで家に帰りました。

何日かして峠の栴檀の木の前を通りかかった娘は驚きました。大勢の男たちが栴檀の木を伐り倒していたのです。
「あの話は本当じゃったんじゃな…」
娘は不思議な気持ちになりました。

月日が流れました。
港には真新しい船が日射しを受けてピカピカ輝いています。この日は船を海に浮かべるお披露目の日です。殿様もお城からやってきて見物していました。
しかし、大勢の男たちが押しても引いても船は一向に動きません。

しびれを切らした殿様が見物客に向かって言いました。
「この船を動かせる者はいないか。動かせて無事に海に浮かべることができたら、好きな褒美をとらせるぞ」
皆はざわめくだけでしたが、そこへ娘が声を上げました。

こんなか弱そうな娘に大きな船を動かせるわけがないと誰もが思った矢先、娘は身軽に船の後ろに立ち、
「やーよい、どっこいせー」
と大きな掛け声を発します。
するとどうでしょう。百人もの男の力でびくともしなかった船が、するする~っと滑るように動いて海に浮かんだのです。

これには殿様もびっくり。大いに喜んで、褒美に何が欲しいのかと尋ねました。娘は答えました。
「贅沢な物は要りません。ただ家にお婆さんがいて、食べものと着るものがありません。お腹いっぱい食べさせてあげたいし、あったかい服を着せてやりとうございます」
優しい娘の返答に、殿様は感心しました。
殿様が米や着物をたくさん与えたので、それ以降娘とお婆さんは食べものや着るものに不自由せず幸せに暮らすことができたのだそうな。

むかしむかし、あるしまに 気立てのやさしいむすめが おばあさんと ふたりでくらしていました。
なかよくしあわせに すごしていましたが、生きていくにはお金も ひつようです。そのため、むすめはとなりの村まで まいにちはたらきに 出かけていました。そこではまいばん しょくじが 出て来ましたので、まずしいむすめにとって ありがたいしごとでした。
さらにむすめは 出されたしょくじを ぜんぶたべずに のこしておいて、まいばん家に もちかえっては おばあさんに たべさせていたのです。

あるよる、おばあさんに たべさせるごはんをもって、かえりみちを いそいでいたところ、ぽつぽつと 雨がふりはじめました。
雨はしだいに つよくなりましたが、まわりは山のとうげなので こやもありません。しかたなく むすめはちかくの センダンの木の下に にげこみます。

「早くやんでくれないかのう」
雨空を見上げながら むすめがつぶやくと、なにやら こえがするではありませんか。もちろん だれもいません。よくよく聞いてみると、こえのぬしは むすめが 雨やどりしている センダンの木なのでした。

「おらは…もうすぐ きりたおされるんじゃ…きりたおされて、ざいもくになって…そんで ふねになるんじゃ…
でも ふねが できあがって うみに うかべようとしてもな、ふねはピクリとも うごかんのじゃ…」

むすめはこわくて しかたありませんでしたが、どうすることもできませんでした。ただただセンダンの木の ひとりごとを 聞くしかなかったのです。

「それを見た とのさまがな…『このふねを うごかせるものはいないか。うごかせて ぶじにうみに うかべることができたら、すきなほうびを とらせるぞ』って…言うはずじゃ…
そうしたら おまえさんはな、ふねのうしろに立ってな…『やーよい、どっこいせー』って こえを出しなされ…
ふねはすべるように うみにうかぶじゃろうて…」

船

センダンの木の ひとりごとが おわると、はげしくふっていた 雨も上がりました。むすめはいそいで 家にかえりました。

何日かして とうげのセンダンの木の前を 通りかかったむすめは おどろきました。おおぜいの男たちが センダンの木を きりたおしていたのです。
「あのはなしは ほんとうじゃったんじゃな…」
むすめは ふしぎな 気もちになりました。

月日がながれました。
みなとには まあたらしいふねが 日ざしをうけて ピカピカかがやいています。この日は ふねをうみにうかべる おひろめの日です。とのさまも おしろからやってきて けんぶつしていました。
しかし、おおぜいの男たちが おしてもひいても ふねは いっこうにうごきません。

しびれを切らした とのさまが けんぶつきゃくに 向かって言いました。
「このふねを うごかせるものはいないか。うごかせて ぶじにうみに うかべることができたら、すきなほうびを とらせるぞ」
みなは ざわめくだけでしたが、そこへむすめが こえを上げました。

こんな かよわそうなむすめに 大きなふねを うごかせるわけがないと だれもが思ったやさき、むすめは みがるに ふねのうしろに立ち、
「やーよい、どっこいせー」
と大きなかけごえを はっします。
するとどうでしょう。百人もの男の力で びくともしなかったふねが、するする~っと すべるようにうごいて うみにうかんだのです。

これには とのさまもびっくり。大いによろこんで、ほうびに何がほしいのかと たずねました。むすめは こたえました。
「ぜいたくなものは いりません。ただ家に おばあさんがいて、たべものと きるものがありません。おなかいっぱい たべさせてあげたいし、あったかいふくを きせてやりとうございます」
やさしいむすめの へんとうに、とのさまは かんしんしました。
とのさまが こめや きものを たくさんあたえたので、それいこう むすめとおばあさんは たべものや きるものに ふじゆうせず しあわせに くらすことができたのだそうな。


画像引用:木々を訪ねる、日本財団

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