むかしむかし、豊後(ぶんご・大分県)の野津(のつ)というところに、吉四六(きっちょむ)さんという男がいました。
ある日のこと、町に住むある男が吉四六さんに尋ねました。
「日本で一番遠い国はどこじゃと思う?」
吉四六さんは迷わず答えます。
「それは尾張(おわり・愛知県)じゃ。なにせ『終わり』って言う名前を持つくらいじゃからのう」
すると、ふたりの話を聞いていた別の男が口を挟みました。
「嘘言うんじゃない。一番遠いのは陸奥(むつ・東北地方)に決まっておるじゃないか」
しかし吉四六さんは譲りません。
「いいや、尾張だ」
「陸奥のほうが遠い」
言い合うばかりで、埒があきません。
「じゃあ、どっちが正しいか賭けをしようじゃないか」
「ああ、いいとも! 負けて吠え面かくなよ!」
ちょうどそこへ、托鉢(たくはつ)のお坊さんが通りかかりました。
これは良い所に良い人が来たと、男はお坊さんを呼びとめます。
お坊さんなら物知りですから、きっと日本で一番遠い国のことも知っているでしょう。
「突然お尋ねして申し訳ないが、日本で一番遠い国はどこだか知っておるかね?」
お坊さんが答えようとしたその時、吉四六さんがお坊さんにお金を差し出しました。
「おありがとうございます」
お坊さんは吉四六さんにお礼を言いました。
吉四六さんはニヤリと笑って、
「ほら、お坊さんも『尾張が遠うございます』っておっしゃった。賭けはわしの勝ちだ」
むかしむかし、豊後(ぶんご・おおいたけん)の 野津(のつ)というところに、きっちょむさんという 男がいました。
ある日のこと、町にすむある男が きっちょむさんに たずねました。
「日本で一ばん とおい国は どこじゃとおもう?」
きっちょむさんは まよわずこたえます。
「それは尾張(おわり・あいちけん)じゃ。なにせ『おわり』って言う名まえを もつくらいじゃからのう」
すると、ふたりのはなしを 聞いていたべつの男が 口をはさみました。
「うそ言うんじゃない。一ばんとおいのは陸奥(むつ・とうほくちほう)に きまっておるじゃないか」
しかし きっちょむさんは ゆずりません。
「いいや、おわりだ」
「むつのほうがとおい」
言いあうばかりで、らちがあきません。
「じゃあ、どっちが正しいか かけをしようじゃないか」
「ああ、いいとも! まけてほえづらかくなよ!」
ちょうどそこへ、たくはつの おぼうさんが とおりかかりました。
これはよいところに よい人が来たと、男は おぼうさんを よびとめます。
おぼうさんなら ものしりですから、きっと日本で 一ばんとおい国のことも 知っているでしょう。
「とつぜんおたずねして もうしわけないが、日本で一ばん とおい国はどこだか 知っておるかね?」
おぼうさんが こたえようとした その時、きっちょむさんが おぼうさんに お金をさし出しました。
「おありがとうございます」
おぼうさんは きっちょむさんに おれいを言いました。
きっちょむさんは ニヤリとわらって、
「ほら、おぼうさんも『おわりが とおうございます』っておっしゃった。かけは わしのかちだ」