【熊本県】根子岳の猫伝説

根子岳の猫伝説 熊本県阿蘇市
動物ちょっとこわいようかい

一般向け かんじすくなめ こどもむけ

むかしむかし、阿蘇(あそ)というところの宮地(みやじ)に住んでいた男が、峠を越えてその向こうの高森(たかもり)まで行くことになりました。
寂しい山道をてくてくと歩いていた男でしたが、ふと気がつけば、辺りは見たこともない景色です。
「ありゃ~。ここはどこだ? 道に迷ってしもうたわい」
歩いても歩いても山の中。男は疲れてへとへとになってしまいました。

すっかり日も落ちてしまって、心細くてたまりません。それでも当てもなく歩いていると、遠くにぼんやりと小さな灯りが見えました。
「助かった。家がある」
喜んでそっちへ向かうと、それは確かに家の灯りでした。こんな山の中にぽつんと一軒だけ家があったのです。

「誰かおりませんかー」
家の戸を叩いて呼んでみれば、しばらくして戸がスッと開き、中から綺麗な女の人が出て来ました。
こんな山奥には相応しくないほどの美人です。
「道に迷ってしまって、困っとるんじゃ。一晩泊めてもらえんでしょうかな」
「それはお困りでしょう。狭い家ですが、さあどうぞ」
女の人はにこりと笑って男を招き入れました。

「ちょうどお湯が沸いたところ。お疲れでしょうから、風呂に浸かって休んでくださいな」
なんとも優しい言葉に男は嬉しくなりました。
「それはありがたい。ではお言葉に甘えて…」
女は風呂まで男を案内し、
「ではごゆっくり。風呂から上がったら夕餉(ゆうげ)にしましょう」
と言って、立ち去りました。

では風呂に入ろうかと、着ていた服を脱ごうとしたところ、どこからかまた別の女の声が…
「いかん、いかんよ。風呂に入っちゃいかんよ」
男はびっくり。キョロキョロと見回しますが誰もいません。
「いかんよ。風呂はいかんよ。すぐお逃げなさい」
不思議なことを言い出す声に、男も不安になって聞き返しました。
「なぜだい?」

風呂

「それはな、この家はな、猫屋敷なんじゃ。お前さんを猫にしようとおびき寄せたんじゃ。この風呂の湯に浸かると猫になるでー。飯を食うと猫になるでー」
男はまたまたびっくり。えらいところに来てしまったと思いながら、一番不思議に思っていることを声の主に尋ねました。
「そうか。それは大変だ。
…それで、お前は誰なんじゃ?」
「お前さんにいつも可愛がってもらっとった、隣の家の猫じゃー」。
「ああ、あの三毛(みけ)か」

それでもまだ半信半疑の男でしたが、声があまりに熱心なものでしたから、とにかく家からそっと逃げ出しました。

ところが、男が逃げたことに気付いた女が、湯桶を手に凄い速さで追いかけて来るではありませんか。
男は必死になって逃げました。
「待てー! 待たんかー! お前も猫にしてくれるわー!」
そう叫びながら湯桶の湯を勢いよく何度もかけてきます。女がかけた湯が少しだけ男の手にかかりましたが、それでも男はなんとか逃げ切ることができました。

ようやく家に帰りついた男は、そのままぐったりと寝込んでしまいます。翌朝、目を覚ましてみれば、男の手に猫の毛が少し生えてきていました。
あのまま風呂に浸かっていたら、と思うとぞっとします。
「三毛のおかげで、助かったんじゃなあ」
そう思いあたった男は、三毛にたいそう感謝したのでした。

むかしむかし、阿蘇(あそ)というところの 宮地(みやじ)に すんでいた男が、とうげをこえて そのむこうの高森(たかもり)まで 行くことになりました。
さみしい山みちを てくてくと あるいていた男でしたが、ふと気がつけば、あたりは見たこともない けしきです。
「ありゃ~。ここはどこだ? みちにまよってしもうたわい」
あるいても あるいても山の中。男はつかれて へとへとになってしまいました。

すっかり日もおちてしまって、こころぼそくて たまりません。それでもあてもなく あるいていると、とおくにぼんやりと 小さなあかりが 見えました。
「たすかった。家がある」
よろこんで そっちへ向かうと、それはたしかに 家のあかりでした。こんな山の中に ぽつんと一けんだけ 家があったのです。

「だれかおりませんかー」
家の戸をたたいて よんでみれば、しばらくして 戸がスッとひらき、中からきれいな 女の人が出て来ました。
こんな山おくには ふさわしくないほどの びじんです。
「みちにまよってしまって、こまっとるんじゃ。ひとばん とめてもらえんでしょうかな」
「それは おこまりでしょう。せまい家ですが、さあどうぞ」
女の人は にこりとわらって 男をまねき入れました。

「ちょうどおゆが わいたところ。おつかれでしょうから、ふろにつかって 休んでくださいな」
なんともやさしいことばに 男はうれしくなりました。
「それはありがたい。ではおことばに あまえて…」
女はふろまで 男をあんないし、
「ではごゆっくり。ふろから上がったら ゆうげにしましょう」
と言って、立ちさりました。

では ふろに入ろうかと、きていたふくを ぬごうとしたところ、どこからかまた べつの女のこえが…
「いかん、いかんよ。ふろに入っちゃいかんよ」
男はびっくり。キョロキョロと 見まわしますが だれもいません。
「いかんよ。ふろはいかんよ。すぐ おにげなさい」
ふしぎなことを 言い出すこえに、男もふあんになって 聞きかえしました。
「なぜだい?」

風呂

「それはな、この家はな、『ネコやしき』なんじゃ。おまえさんを ネコにしようと おびきよせたんじゃ。このふろのゆに つかるとネコになるでー。めしをくうと ネコになるでー」
男はまたまたびっくり。えらいところに来てしまったと おもいながら、一ばんふしぎに 思っていることを こえのぬしに たずねました。
「そうか。それはたいへんだ。
…それで、おまえは だれなんじゃ?」
「おまえさんに いつもかわいがってもらっとった、となりの家の ネコじゃー」。
「ああ、あのミケか」

それでもまだ はんしんはんぎの男でしたが、こえがあまりに ねっしんなものでしたから、とにかく家から そっとにげ出しました。

ところが、男がにげたことに 気づいた女が、『ゆおけ』を手に すごいはやさで おいかけて来るではありませんか。
男はひっしになって にげました。
「まてー! またんかー! おまえもネコにしてくれるわー!」
そうさけびながら 『ゆおけ』のゆを いきおいよく なんどもかけてきます。女がかけたゆが 少しだけ男の手に かかりましたが、それでも男は なんとかにげ切ることができました。

ようやく家に かえりついた男は、そのままぐったりと ねこんでしまいます。よくあさ、目をさましてみれば、男の手に ネコの毛が 少し生えてきていました。
あのままふろに つかっていたら、と思うとぞっとします。
「ミケのおかげで、たすかったんじゃなあ」
そう思いあたった男は、ミケにたいそう かんしゃしたのでした。


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