【栃木県】千駄塚

千駄塚 栃木県小山市
ふしぎおもしろどうぶつ

一般向け かんじすくなめ こどもむけ

むかしむかし、下野(しもつけ)の小山(おやま)の町の近くに、牧の長者というお金持ちの長者が住んでいました。
ある日のこと、長者の屋敷に遠くの陸奥(むつ)から商人がやって来ました。商人は千頭もの馬を引き連れて、その背中にはロウソクの材料になるたくさんの蜜蝋(みつろう)を積んでいました。商人はこの蜜蝋を売りに行く途中だったのです。

日が暮れてしまいそうだったので、長者の家に泊めてもらった商人でしたが、長者と一緒に夕食を食べているときに、長者から不思議なことを聞かされました。
「わしの家にはな、それはそれは珍しい掛け軸があってな」
「名のある人が描いた掛け軸ですかな」
「いや、もちろんそうなのじゃが、ただ有名な人が描いたというだけではないんじゃ」
「ほほう。ではどんな掛け軸なのですかい」
「うむ。それはな、ニワトリの絵が描いてあってな。朝になるとコケコッコーと鳴くんじゃよ」

商人は大笑い。そんなバカなことがあるはずない。人をだましてはいけないと文句を言いました。
しかし長者は真面目な顔のまま。嘘だ、いや嘘じゃないと問答を繰り返した結果、商人は賭けをひとつ提案しました。
「そこまで言うなら、もしも掛け軸が鳴いたら、おいらの千頭の馬に積んだ貴重な荷物を全部お前さんにくれてやろうじゃないか」
「よかろう」

こうして賭けを始めてしまった二人は、掛け軸がある部屋に布団を敷いて寝ることにしました。
そして朝。果たしてどうなったことか。
それはもうびっくりするほどの大きな声で、コケコッコーと掛け軸が鳴いたのです。商人はぶったまげてしまいました。
「まさか、絵が鳴くなんて…」
賭けに負けてしまった商人はがっかりして、千頭分の荷物を全部置いて、とぼとぼと帰って行きました。

ニワトリ

一年が経ちました。
あの商人が、再び長者の屋敷にやって来ました。昨年と同じように、千頭の馬の背中にたくさんの荷物を載せて。そして夕食を食べているとき、商人が長者にまたも賭けを言い出したのです。
「あのニワトリの掛け軸のことじゃが、やはり信じられん。本当に鳴くのかどうか、もう一度聞かせてくれないかい。もしも鳴いたら、また馬に積んだ大事な荷物を全部あげようじゃないか。でも鳴かなければ、去年あげた荷物を全部返してもらいたい」

長者は深く考えず、
「よかろう、よかろう」
と、その賭けに乗りました。
夜は更け、そして朝になりました。

どうしたことでしょう。いつもなら元気よく大声で鳴く掛け軸が、今朝に限っては全く鳴きません。首をかしげる長者をよそに、商人は高笑い。
「ほれ、やっぱり掛け軸が鳴くなんてことが、あるはずがないじゃないか。約束通り、荷物は全部返してもらうでな」
こう言い放った商人は、馬に積んできた荷物と去年の荷物を載せ替えて、意気揚々と帰って行きました。

「どうしたことじゃろう…」
毎日毎朝必ず鳴いていたのに、今日に限って鳴かないなんて。長者は悔しい目で、掛け軸をジロリと睨みつけました。
「はっ」
よくよく見てみると、掛け軸の絵のニワトリの首のところに、針を刺したような小さな穴が開いているではありませんか。

「まんまとやられた!」
長者は商人に騙されたことを悔しがりました。けれどもどうしようもありません。しかたなく商人が置いて行った荷物を開けてみたところ、中身は大量のゴミ。
貴重な掛け軸を駄目にされて、ゴミまで押し付けられた長者は、その場の勢いでつまらない賭けなどしなければ良かったと、うんと反省しました。
長者は大きな穴を掘り、商人のゴミを全部そこに捨てました。そして土をかぶせて小さな山を作り、できあがった山を見ては、自分への戒めにしたのだそうな。

むかしむかし、下野(しもつけ)の 小山(おやま)の 町の近くに、「まきのちょうじゃ」という お金もちの ちょうじゃが 住んでいました。
ある日のこと、ちょうじゃのやしきに とおくの陸奥(むつ)から しょうにんが やって来ました。しょうにんは 千とうものウマを ひきつれて、そのせなかには ロウソクのざいりょうになる たくさんの「みつろう」を つんでいました。しょうにんは この「みつろう」を うりに行く とちゅうだったのです。

日がくれてしまいそう だったので、ちょうじゃの家に とめてもらった しょうにんでしたが、ちょうじゃと いっしょに夕食を 食べているときに、ちょうじゃから ふしぎなことを聞かされました。
「わしの家にはな、それはそれは めずらしい『かけじく』があってな」
「名のある人が かいた『かけじく』ですかな」
「いや、もちろん そうなのじゃが、ただゆうめいな人が かいたというだけでは ないんじゃ」
「ほほう。ではどんな『かけじく』なのですかい」
「うむ。それはな、ニワトリの『え』が かいてあってな。あさになると コケコッコーと なくんじゃよ」

しょうにんは 大わらい。そんなバカなことが あるはずない。人をだましては いけないと もんくを言いました。
しかしちょうじゃは まじめなかおのまま。うそだ、いやうそじゃないと もんどうを くりかえしたけっか、しょうにんは 「かけ」をひとつ ていあんしました。
「そこまで言うなら、もしも『かけじく』が ないたら、おいらの 千とうのウマにつんだ きちょうなにもつを ぜんぶおまえさんに くれてやろうじゃないか」
「よかろう」

こうして「かけ」を はじめてしまったふたりは、「かけじく」があるへやに ふとんをしいて ねることにしました。
そしてあさ。はたして どうなったことか。
それはもう びっくりするほどの 大きなこえで、コケコッコーと 「かけじく」が ないたのです。しょうにんは ぶったまげてしまいました。
「まさか、『え』が なくなんて…」
「かけ」にまけてしまった しょうにんは がっかりして、千とう分の にもつを ぜんぶおいて、とぼとぼと かえって行きました。

ニワトリ

一年が たちました。
あのしょうにんが、ふたたびちょうじゃの やしきにやって来ました。さくねんと 同じように、千とうのウマの せなかにたくさんの にもつをのせて。そして夕食を 食べているとき、しょうにんが ちょうじゃに またも「かけ」を 言い出したのです。
「あのニワトリの 『かけじく』のことじゃが、やはり信じられん。本当に なくのかどうか、もう一ど 聞かせてくれないかい。もしもないたら、またウマにつんだ だいじなにもつを ぜんぶあげようじゃないか。でもなかなければ、きょねんあげた にもつをぜんぶ かえしてもらいたい」

ちょうじゃは ふかくかんがえず、
「よかろう、よかろう」
と、その「かけ」に のりました。
よるはふけ、そしてあさになりました。

どうしたことでしょう。いつもなら元気よく 大ごえでなく 『かけじく』が、けさにかぎっては まったくなきません。くびをかしげる ちょうじゃをよそに、しょうにんは 高わらい。
「ほれ、やっぱり『かけじく』が なくなんてことが、あるはずがないじゃないか。やくそくどおり、にもつは ぜんぶかえしてもらうでな」
こう言いはなった しょうにんは、ウマに つんできたにもつと きょねんのにもつを のせかえて、いきようようと かえって行きました。

「どうしたことじゃろう…」
まい日まいあさ かならずないていたのに、きょうにかぎって なかないなんて。ちょうじゃは くやしい目で、「かけじく」をジロリと にらみつけました。
「はっ」
よくよく見てみると、「かけじく」の「え」の ニワトリのくびのところに、はりをさしたような 小さなあなが 開いているではありませんか。

「まんまとやられた!」
ちょうじゃは しょうにんに だまされたことを くやしがりました。けれども どうしようもありません。しかたなく しょうにんが おいて行ったにもつを 開けてみたところ、中みは たいりょうのゴミ。
きちょうな「かけじく」を だめにされて、ゴミまで おしつけられた ちょうじゃは、そのばのいきおいで つまらない「かけ」など しなければよかったと、うんと はんせいしました。
ちょうじゃは 大きなあなをほり、しょうにんのゴミを ぜんぶそこに すてました。そして土をかぶせて 小さな山を作り、できあがった 山を見ては、自分への いましめにしたのだそうな。


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千駄塚古墳

千駄塚古墳

商人のゴミを埋めた山と思いきや、その正体は実は古墳。頂に浅間神社を祀っています。古墳の直径は70m、高さは10m。古墳から出土した家形石棺が墳麗に保存され、間近で見ることができます



よみ せんだづかこふん
住所 栃木県小山市千駄塚
電話 0285-45-5331 (小山市立博物館)
時間
休み なし
料金 無料
その他  

画像引用:栃木県教育委員会事務局文化財課様(http://www.tochigi-edu.ed.jp/center/bunkazai/2341002.htm)

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