むかしむかし、あるところに、じょんという名前の男がおりました。じょんは自分の名前が嫌いでした。村人がじょんを呼ぶ時に「じょん、じょん」と呼ぶものですから、なんだか小馬鹿にされているような気になるのです。
「おらに子ができたら、『じょん』みたいな短い名前じゃなく、長い名前にするべ。長い名前ならば、馬鹿にもできまい」
じょんはそんなことを考えるようになり、そして子供が生まれました。立派な男の子です。
じょんはどんな名前にしようか、うんうん唸りながら何日も考えました。
結局、決まった名前は「てえぎいてえぎいのてきすりぼう そうだあにゅうどううりりんぼう ちゃわんのちゃんすけ ひきにのえいすけ」という、なんとまあ長い長いものでした。
5年の年月が過ぎました。
じょんの息子はわんぱくに育ち、いつも近所の子供たちと走りまわって遊んでいます。
ある日のこと、じょんの息子がやっぱり近所の子供たちと一緒になって走って遊んでいたところ、ちょうどそこにあった池に、足を滑らせて落ちてしまったのです。
子供たちは驚いて、じょんの息子を助けようとしましたが、どうにもできません。大人を呼んでこようと、すぐに一人の子供が走って村に戻りました。

途中、ある村人が走って来る子供に気が付きます。
「そんなに急いで走ってどうしたんだべ」
子供は息を切らして答えました。
「大変、大変。大変なんじゃ」
村人は子供を落ち着かせます。
「ほれ、落ち着け。何が大変なのか、ちゃんと説明してみよ」
子供はひとつ深呼吸して言いました。
「あのな、じょんのところのな」
「うん。じょんのところがどうした」
「じょんのところの、てえぎいてえぎいのてきすりぼう そうだあにゅうどううりりんぼう ちゃわんのちゃんすけ ひきにのえいすけがな」
「うんうん。じょんのところの、てえぎいてえぎいのてきすりぼう そうだあにゅうどううりりんぼう ちゃわんのちゃんすけ ひきにのえいすけがどうしたんだ」
「てえぎいてえぎいのてきすりぼう そうだあにゅうどううりりんぼう ちゃわんのちゃんすけ ひきにのえいすけが、池に落ちてしもうたんじゃ」
「そりゃ大変だ。おらは先に池に行くから、他にも人を呼んでおいで」
「うん、わかった」
なんだかまどろっこしいやり取りのあと、村人は池に走り、子供は村に走りました。
村に着いた子供は、じょんの家に行きました。
「じょんはおるかー」
「おるぞー。どうしたんじゃ息を切らして」
「あのな。てえぎいてえぎいのてきすりぼう そうだあにゅうどううりりんぼう ちゃわんのちゃんすけ ひきにのえいすけがな、大変なんじゃ」
「何だって? てえぎいてえぎいのてきすりぼう そうだあにゅうどううりりんぼう ちゃわんのちゃんすけ ひきにのえいすけに何があったんじゃ?」
「てえぎいてえぎいのてきすりぼう そうだあにゅうどううりりんぼう ちゃわんのちゃんすけ ひきにのえいすけがな、池に落ちてしもうたんじゃ」
「そりゃ急がねば」
じょんは大急ぎで池に走りましたが、息子の名前があんまり長かったものだから間に合わず、息子は溺れ死んでしまいました。
長すぎる名前も良くないと、じょんは悔やんだのだそうな。
むかしむかし、あるところに、じょん という名まえの男がおりました。じょんは じぶんの名まえが きらいでした。村人が じょんをよぶときに「じょん、じょん」と よぶものですから、なんだか こばかにされているような気になるのです。
「おらに子ができたら、『じょん』みたいな みじかい名まえじゃなく、ながい名まえにするべ。ながい名まえならば、ばかにもできまい」
じょんは そんなことを かんがえるようになり、そして子どもが 生まれました。りっぱな男の子です。
じょんは どんな名まえにしようか、うんうん うなりながら なんにちも かんがえました。
けっきょく、きまった名まえは「てえぎいてえぎいのてきすりぼう そうだあにゅうどううりりんぼう ちゃわんのちゃんすけ ひきにのえいすけ」という、なんとまあ ながいながいものでした。
5年の年月がすぎました。
じょんのむすこは わんぱくにそだち、いつもきんじょの 子どもたちと はしりまわって あそんでいます。
ある日のこと、じょんのむすこが やっぱりきんじょの 子どもたちと いっしょになって はしって あそんでいたところ、ちょうどそこにあった「いけ」に、足をすべらせて おちてしまったのです。
子どもたちは おどろいて、じょんのむすこを たすけようとしましたが、どうにもできません。おとなを よんでこようと、すぐにひとりの 子どもがはしって 村にもどりました。

とちゅう、ある村人が はしってくる子どもに 気がつきます。
「そんなにいそいで はしって どうしたんだべ」
子どもは いきを切らして こたえました。
「たいへん、たいへん。たいへんなんじゃ」
村人は子どもを おちつかせます。
「ほれ、おちつけ。何がたいへんなのか、ちゃんと せつめいしてみよ」
子どもはひとつ しんこきゅうして 言いました。
「あのな、じょんのところのな」
「うん。じょんのところがどうした」
「じょんのところの、てえぎいてえぎいのてきすりぼう そうだあにゅうどううりりんぼう ちゃわんのちゃんすけ ひきにのえいすけがな」
「うんうん。じょんのところの、てえぎいてえぎいのてきすりぼう そうだあにゅうどううりりんぼう ちゃわんのちゃんすけ ひきにのえいすけがどうしたんだ」
「てえぎいてえぎいのてきすりぼう そうだあにゅうどううりりんぼう ちゃわんのちゃんすけ ひきにのえいすけが、『いけ』に おちてしもうたんじゃ」
「そりゃたいへんだ。おらは 先に『いけ』に行くから、ほかにも人を よんでおいで」
「うん、わかった」
なんだかまどろっこしい やりとりのあと、村人は「いけ」にはしり、子どもは村にはしりました。
村についた子どもは、じょんのいえに 行きました。
「じょんはおるかー」
「おるぞー。どうしたんじゃ いきを切らして」
「あのな。てえぎいてえぎいのてきすりぼう そうだあにゅうどううりりんぼう ちゃわんのちゃんすけ ひきにのえいすけがな、たいへんなんじゃ」
「何だって? てえぎいてえぎいのてきすりぼう そうだあにゅうどううりりんぼう ちゃわんのちゃんすけ ひきにのえいすけに 何があったんじゃ?」
「てえぎいてえぎいのてきすりぼう そうだあにゅうどううりりんぼう ちゃわんのちゃんすけ ひきにのえいすけがな、『いけ』に おちてしもうたんじゃ」
「そりゃ いそがねば」
じょんは大いそぎで 『いけ』にはしりましたが、むすこの名まえが あんまりながかったものだから まにあわず、むすこは おぼれしんでしまいました。
ながすぎる名まえも よくないと、じょんは くやんだのだそうな。