むかしがたり

小僧が栗拾いに出かけた山で出会ったのは…「三枚のおふだ」

ホーム > 関西地方 > 三枚のおふだ

三枚のおふだ 奈良県野迫川村

  • ふしぎようかいゆうめい

一般向け かんじすくなめ こどもむけ

むかしむかし、山のそばの小さな寺に坊さんと小僧が暮らしておりました。
秋になりました。食い意地の張った小僧は栗をたくさん食べたいと思っていました。寺の向こうの山のまた向こうには、栗の木がたくさんあったので、小僧は栗拾いに行きたいと坊さんに頼んでみます。

しかし坊さんは、なかなか首を縦に振りません。
「お前な、あの山には恐ろしい山姥(やまんば)がおるんじゃ。お前みたいなちっこい小僧は、あっという間に食われちまうぞ」
そうやって山の恐ろしさを言って聞かせましたが、栗を食べることで頭の中がいっぱいになってしまった小僧の耳には入らないようです。
「それでも栗を拾いに行きたいんです。どうしても行きたいんです」

あまりにしつこく小僧がせがむものですから、坊さんも根負けしてしまいました。
「むうう、わかった。それなら行くがよい。」
小僧は大喜びです。
「もしもだ、もし山の中で山姥に出食わしたときはな、これを使いなさい」
坊さんは懐から3枚のおふだを出して、小僧に手渡しました。

次の日。朝のお勤めを済ませた小僧は、朝ごはんもそこそこに大きな籠を担いで山へ走って行きました。
山の向こうのまた向こうの栗の林に着いてみると、一面の栗の木にはたわわに実が熟していました。地面にも数え切れないほどの栗の実が落ちていて、小僧はもう有頂天です。一目散に栗の実を拾い始めました。

いくつ拾ったことでしょう。大きな籠いっぱいに栗を集めてみれば、いつの間にか日は暮れてしまっていました。元気ないたずら小僧も、さすがに心細くなってきます。
「もう夜になってしもうた。早く寺に帰らんと…」
籠を担いで山を下りようとした小僧でしたが、人っ子ひとりいない山の中、なんだかおっかなくて仕方ありません。

「どうしたんじゃ、こんなところで」
突然声を掛けられた小僧はびっくりしてしまいました。いつの間にかすぐ後ろに、しわだらけのおばあさんが立っていたのです。
「栗を拾いに来たんじゃけど、日が暮れてしもうたんです」
小僧が事情を説明すると、おばあさんはホホホと笑って答えました。
「そうかそうか。じゃあ、すぐそこがわしの家じゃから、泊って行きなさい。夜の山は危ないからの。栗ならわしがいくらでも茹でてあげよう」
渡りに船とはこのこと。小僧は大喜びでおばあさんの家に泊めてもらうことにしました。

おばあさんは小僧の籠にあったたくさんの栗を鍋で茹でて、小僧に食べさせてくれました。美味しくて美味しくて食べ過ぎた小僧は、大満足のまま、いつしかぐっすり寝てしまいました。

栗

夜中、何やらシャーシャーという物音で、小僧はパッチリと目を覚ましました。何の音だろう…隣の台所から聞こえてくるようです。小僧はそーっと戸の隙間から覗いてみると、暗い台所の隅で、月の光を頼りにおばあさんが包丁を研いでいました。いや、おばあさんではなかったのです。それはそれはおそろしい姿の山姥でした。

「こりゃいかん、逃げなきゃならん」
そう決心した小僧でしたが、運の悪いことに、小僧の足音に山姥が気付いてしまいました。
「小僧!どうしたんじゃ?」
「ああ、おばあさん…小便じゃ、小便に行きたいんじゃ」
「ならん。そこですればええ」
「そんなことできねえ。便所に行かせておくれ」
小僧があまりに言うものですから、山姥は仕方なく小僧の体を縄でしばって、便所に連れて行きました。
便所に入って戸を閉めると、小僧はすぐに縛られた縄をほどき、便所の戸の取っ手におふだと一緒に結びつけて小声で念じました。
「おらの身代わりをしてくんろ」

そして便所の小窓から逃げ出した小僧は、一目散に走り出しました。
山姥はイライラしながら待っています。
「まだか小僧?」
すると縄で括り付けられたおふだが小僧の声色で返事をしたのです。
「まあだだよ」
またしばらくして、
「まだか小僧?」
「まあだだよ」

こんなやりとりを繰り返して痺れを切らした山姥は、とうとう我慢ができなくなって、縄を思いっきり引っ張りました。
便所の戸が割れるようにはずれ、中を見てみるとそこに小僧の姿はありません。
「騙しよったな!小僧め!」
山姥は怒り狂って逃げた小僧を追いかけます。

一生懸命走った小僧は、山を一つ越えた辺りまでやって来ました。
「ここまで逃げれば大丈夫…」
そう思った矢先、遠くから山姥の叫び声が響きました。
「小僧!待たんかー!」
なんて足の速い山姥でしょう。もうすぐそこまで山姥は来ていたのです。
小僧は再び走り出しましたが、山姥の駆ける速さは小僧を大きく勝り、すぐに捕まってしまうのは明らか。

小僧は2枚目のおふだを懐から取り出して、
「大きな大きな川になれー」
と叫びました。
すると山姥の前に大きな大きな急流が現れました。
「ぐわああああ」
あっという間に急流に飲み込まれた山姥でしたが、そのまま流されたわけではありません。山姥は大きく息を吐いたと思ったら、今度はものすごい量の水を一気に吸い込んでしまったのです。

その隙に小僧は二つ目の山まで逃げのびました。もう大丈夫かなと一息ついたのも束の間、またも山姥が叫び声を上げて走ってくるのが見えました。
小僧は最後のおふだを取り出して、
「大きな砂の山、出てこい!」
今度は高い高い砂の山が現れて、山姥の行く手を遮りました。登ろうとしても足が砂にめりこんで、なかなか進みません。

このうちに小僧は息を切らして走り、ようやく寺まで辿りつきました。
「大変なんじゃ!山姥が来るんじゃ!」
涙声で叫ぶ小僧をよそに、坊さんは慌てる様子もなく、のんびり餅を焼いていました。
「ほなら、そこに隠れておれ」
坊さんはこう命じると、餅をひとつ美味しそうに頬張るのです。

そしてとうとう山姥が砂山を乗り越えて、寺まで辿りつきました。
「やい!小僧はどこじゃ!おい、坊さんよ、小僧がここに逃げて来ただろう? 早く出さねばお前を食ってしまうぞ」
坊さんは驚きもしません。
「小僧なんてここにはおらんが、わしを食うのならば、化かし合いの勝負をせんか? もしわしが負けたらわしを食えば良い」
「化け比べか、おもしろい。やってやろうじゃないか」
「じゃあ、大きくなることはできるかえ?」
坊さんがけしかけると、山姥は笑って天井まで付くほどの高さに大きくなりました。

「ほう、すごいな。でも逆に小さくなることはできまい。たとえば、小豆(あずき)になるとかな…」
「小豆なんて簡単簡単、ほれ」
天井ほどの高さがあった山姥は、すぐにどんどん小さくなり、しまいに一粒の小豆になりました。
「今じゃ」
坊さんは何食わぬ顔で小豆になった山姥を指でつまむと、焼き立ての餅の中に練りこんで、パクッと食べてしまったのです。
「ああ旨かった」
坊さんはにんまり笑うと、隠れていた小僧はようやく一安心しました。

これ以降、小僧はわがままを言うことはなくなり、真面目にお勤めに励んだのだそうな。

むかしむかし、山のそばの小さな寺に ぼうさんと こぞうが くらしておりました。
あきになりました。くいいじのはった こぞうはクリをたくさん たべたいとおもっていました。寺のむこうの山の またむこうには、クリの木がたくさんあったので、 こぞうはクリひろいに行きたいと ぼうさんに たのんでみます。

しかしぼうさんは、なかなかくびを たてにふりません。
「おまえな、あの山には おそろしい『やまんば』がおるんじゃ。おまえみたいな ちっこいこぞうは、あっというまに くわれちまうぞ」
そうやって山のおそろしさを言って聞かせましたが、クリをたべることで あたまの中が いっぱいになってしまった こぞうの耳には入らないようです。
「それでもクリを ひろいに行きたいんです。どうしても行きたいんです」

あまりにしつこく こぞうがせがむものですから、ぼうさんも こんまけしてしまいました。
「むうう、わかった。それなら行くがよい。」
こぞうは大よろこびです。
「もしもだ、もし山の中で『やまんば』にでくわしたときはな、これをつかいなさい」
ぼうさんは ふところから3まいのおふだを出して、こぞうに手わたしました。

つぎの日。あさのおつとめを すませたこぞうは、あさごはんもそこそこに 大きなカゴをかついで 山へはしって行きました。
山のむこうの またむこうのクリの林に ついてみると、いちめんのクリの木にはたわわに「み」がじゅくしていました。じめんにも かぞえきれないほどの クリの「み」がおちていて、こぞうはもう うちょうてんです。いちもくさんにクリの「み」を ひろいはじめました。

いくつひろったことでしょう。大きなカゴいっぱいに クリをあつめてみれば、いつのまにか 日はくれてしまっていました。げんきないたずらこぞうも、さすがにこころぼそくなってきます。
「もうよるになってしもうた。早く寺にかえらんと…」
カゴをかついで 山を下りようとした こぞうでしたが、人っ子ひとりいない山の中、なんだかおっかなくて しかたありません。

「どうしたんじゃ、こんなところで」
とつぜん、こえをかけられたこぞうは びっくりしてしまいました。いつのまにか すぐうしろに、しわだらけのおばあさんが立っていたのです。
「クリをひろいに来たんじゃけど、日がくれてしもうたんです」
こぞうがじじょうを せつめいすると、おばあさんは ホホホとわらってこたえました。
「そうかそうか。じゃあ、すぐそこがわしの家じゃから、とまって行きなさい。よるの山は あぶないからの。クリならわしがいくらでも ゆでてあげよう」
わたりにふね とはこのこと。こぞうは大よろこびで おばあさんの家にとめてもらうことにしました。

おばあさんはこぞうのカゴにあった たくさんのクリを なべでゆでて、こぞうにたべさせてくれました。おいしくておいしくて たべすぎたこぞうは、大まんぞくのまま、いつしかぐっすり ねてしまいました。

栗

よなか、何やらシャーシャーという もの音で、こぞうはパッチリと目をさましました。何の音だろう…となりのだいどころから 聞こえてくるようです。こぞうは そーっと「と」のすきまから のぞいてみると、くらいだいどころの すみで、月のひかりをたよりに おばあさんが ほうちょうを といでいました。いや、おばあさんではなかったのです。それはそれはおそろしいすがたの「やまんば」でした。

「こりゃいかん、にげなきゃならん」
そうけっしんした こぞうでしたが、うんのわるいことに、こぞうの足音に「やまんば」が気づいてしまいました。
「こぞう!どうしたんじゃ?」
「ああ、おばあさん…しょうべんじゃ、しょうべんに行きたいんじゃ」
「ならん。そこですればええ」
「そんなことできねえ。べんじょに行かせておくれ」
こぞうが あまりに言うものですから、「やまんば」は しかたなくこぞうの体を なわでしばって、べんじょにつれて行きました。
べんじょに入って「と」をしめると、こぞうはすぐに しばられたなわをほどき、べんじょの「と」のとっ手に おふだといっしょに むすびつけて こごえでねんじました。
「おらの みがわりをしてくんろ」

そしてべんじょの小まどから にげ出したこぞうは、いちもくさんに はしり出しました。
「やまんば」はイライラしながら まっています。
「まだかこぞう?」
するとなわで くくりつけられたおふだが こぞうのこわいろで へんじをしたのです。
「まあだだよ」
またしばらくして、
「まだかこぞう?」
「まあだだよ」

こんなやりとりを くりかえしてしびれを 切らした「やまんば」は、とうとうがまんができなくなって、なわを おもいっきりひっぱりました。
べんじょの「と」が われるようにはずれ、中を見てみると そこにこぞうの すがたはありません。
「だましよったな!こぞうめ!」
「やまんば」はいかりくるって にげたこぞうを おいかけます。

いっしょうけんめい はしったこぞうは、山を一つこえたあたりまで やって来ました。
「ここまでにげれば だいじょうぶ…」
そうおもったやさき、とおくから やまんばの さけびごえが ひびきました。
「こぞう!またんかー!」
なんて足のはやい「やまんば」でしょう。もうすぐそこまで「やまんば」は来ていたのです。
こぞうはふたたび はしり出しましたが、「やまんば」のかけるはやさは こぞうを大きくまさり、すぐにつかまってしまうのは あきらか。

こぞうは2まい目のおふだを ふところからとり出して、
「大きな大きな川になれー」
とさけびました。
すると「やまんば」のまえに 大きな大きな きゅうりゅうが あらわれました。
「ぐわああああ」
あっというまに きゅうりゅうに のみこまれた「やまんば」でしたが、そのままながされた わけではありません。「やまんば」は大きく いきをはいたとおもったら、こんどはものすごい りょうの水をいっきに すいこんでしまったのです。

そのすきに こぞうはふたつ目の山まで にげのびました。もうだいじょうぶかなとひといきついたのも つかのま、またも「やまんば」が さけびごえを上げて はしってくるのが見えました。
こぞうは さいごのおふだを とり出して、
「大きなすなの山、出てこい!」
こんどは たかいたかい すなの山があらわれて、「やまんば」のゆくてを さえぎりました。のぼろうとしても 足がすなにめりこんで、なかなかすすみません。

このうちにこぞうは いきを切らしてはしり、ようやく寺まで たどりつきました。
「たいへんなんじゃ!『やまんば』がくるんじゃ!」
なみだごえでさけぶ こぞうをよそに、ぼうさんは あわてるようすもなく、のんびり「もち」をやいていました。
「ほなら、そこにかくれておれ」
ぼうさんは こうめいじると、「もち」をひとつおいしそうに ほおばるのです。

そしてとうとう「やまんば」がすな山を のりこえて、寺までたどりつきました。
「やい!こぞうはどこじゃ!おい、ぼうさんよ、こぞうがここに にげてきただろう? 早く出さねば おまえをくってしまうぞ」
ぼうさんは おどろきもしません。
「こぞうなんて ここにはおらんが、わしを くうのならば、『ばかしあい』のしょうぶをせんか? もしわしが まけたら わしをくえばよい」
「ばけくらべか、おもしろい。やってやろうじゃないか」
「じゃあ、大きくなることはできるかえ?」
ぼうさんがけしかけると、「やまんば」はわらって てんじょうまで つくほどのたかさに 大きくなりました。

「ほう、すごいな。でもぎゃくに小さくなることはできまい。たとえば、アズキになるとかな…」
「アズキなんて かんたんかんたん、ほれ」
てんじょうほどの たかさがあった「やまんば」は、すぐにどんどん小さくなり、しまいに ひとつぶのアズキになりました。
「いまじゃ」
ぼうさんは なにくわぬかおで アズキになった「やまんば」をゆびでつまむと、やきたての「もち」の中に ねりこんで、パクッと たべてしまったのです。
「ああうまかった」
ぼうさんは にんまりわらうと、かくれていたこぞうは ようやく ひとあんしんしました。

これいこう、こぞうは わがままを言うことはなくなり、まじめにおつとめに はげんだのだそうな。