むかしがたり

父親がおかしな約束をしてしまったばっかりに…「蛇体橋」

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蛇体橋 京都府宇治市

  • ふしぎどうぶつかんこうスポット

一般向け かんじすくなめ こどもむけ

むかしむかし、三室戸(みむろと)の観音様を熱心に拝んでいる娘がおりました。
ある日のこと、娘は村人が蟹を殺そうとしている場に行きあたりました。
「なんてむごいことを。魚の干物をあげるんで、蟹を逃がしてやっておくれやす」
村人は魚がもらえるなら儲け物だと思い、蟹を逃がしてやりました。

幾日か経って、今度は娘の父親が蛇に出くわしました。蛇はちょうど蛙を今にも飲み込もうとしているところ。娘が優しければ、父親も優しい人だったので、
「これ、蛇よ。蛙を逃がしてやりなされ。逃がしてやれば、代わりに娘をお前にあげてもええぞ」

蛇は蛙を放し、そのままどこかへ消えていきました。
しかし、父親も勢いとは言え、うっかり大変な約束をしてしまったものです。

その夜のこと。
若い男に姿を変えた蛇が、娘の家にやって来ました。
「約束じゃ。娘をくれ」
父親は慌てふためいて、
「ええと…三日。三日後に娘をやろう。三日経ってからまた来てくれまへんか」
またおかしな約束を重ねてしまいました。

若い男

そして三日経ちました。
父親は家の中に蛇が入って来られないように、家の戸や窓を頑丈な板で打ち付けます。娘は家の奥に閉じ込められました。
「ああ…観音様。うちは一体どうなるんやろか。お助けください」
娘は一層熱心に観音様に祈りを捧げます。

あの男が家にやって来ました。
「三日経ったぞ。約束したとおり、娘をくれ」
しかし、家の戸が開くどころか、何の返事もありません。しびれを切らした男は、元の蛇の姿に戻りました。そしてその尻尾で戸をドンドン叩きだしたのです。

叩く音はだんだん激しく大きくなり、中の娘は怖さで震えが止まらなくなりました。ますます観音様の助けを求めて祈ります。
そして、とうとう頑丈な戸がメリメリと音を立てて壊されてしまった時、娘は「観音様!」と大声で叫びました。

すると突如どこからかたくさんの蟹が現れ、何十何百ものハサミで蛇を斬り刻もうと突進したのです。
さすがの蛇もあまりの数の蟹には太刀打ちできず、一目散に逃げ帰って行きました。

次の日、蟹に助けられた娘は、これも観音様のおかげだと、三室戸寺(みむろとじ)にお礼のお参りに出掛けました。
雨が降っていましたが、お礼を申し上げるのは早いほうがいいと娘は思い、傘をさして出掛けました。てくてく歩いて、寺の参道の橋を渡り切ったところで、娘はなにやら誰かに見られているような気になりました。振り返ってみると、橋の上に蛇がいました。

蛇は悲しそうな目をして、娘を見つめていました。そして顔を背けるように、するすると逃げ消えてしまったのです。

それからというもの、その橋には雨が降ると蛇の影が出るようになったそうな。
こうしたことから、橋は人々から「蛇体橋(じゃたいばし)」と呼ばれているのです。

むかしむかし、三室戸(みむろと)の かんのんさまを ねっしんに おがんでいる むすめがおりました。
ある日のこと、むすめは村人がカニを ころそうとしている ばに行きあたりました。
「なんてむごいことを。さかなのひものを あげるんで、カニをにがしてやっておくれやす」
村人は さかながもらえるなら もうけものだとおもい、カニをにがしてやりました。

いくにちか たって、こんどは むすめのちちおやが ヘビに出くわしました。ヘビはちょうど カエルを今にも のみこもうとしているところ。むすめが やさしければ、ちちおやも やさしい人だったので、
「これ、ヘビよ。カエルをにがしてやりなされ。にがしてやれば、かわりに むすめを おまえにあげてもええぞ」

ヘビはカエルをはなし、そのままどこかへ きえていきました。
しかし、ちちおやも いきおいとは言え、うっかりたいへんな やくそくを してしまったものです。

そのよるのこと。
わかい男に すがたをかえたヘビが、むすめの家にやって来ました。
「やくそくじゃ。むすめをくれ」
ちちおやは あわてふためいて、
「ええと…みっか。みっかごに むすめをやろう。みっかたってから また来てくれまへんか」
またおかしな やくそくを かさねてしまいました。

若い男

そして みっかたちました。
ちちおやは 家の中にヘビが入って来られないように、家の「と」や まどを がんじょうな いたで うちつけます。むすめは家のおくに とじこめられました。
「ああ…かんのんさま。うちは いったい どうなるんやろか。おたすけください」
むすめは いっそうねっしんに かんのんさまに いのりをささげます。

あの男が家にやって来ました。
「みっかたったぞ。やくそくしたとおり、むすめをくれ」
しかし、家の「と」が ひらくどころか、何のへんじも ありません。しびれを きらした男は、もとのヘビのすがたに もどりました。そしてそのしっぽで 「と」をドンドンたたきだしたのです。

たたく音は だんだんはげしく 大きくなり、中のむすめは こわさでふるえが とまらなくなりました。ますますかんのんさまの たすけをもとめて いのります。
そして、とうとう がんじょうな「と」がメリメリと音を立てて こわされてしまったとき、むすめは「かんのんさま!」と おおごえでさけびました。

するととつじょ どこからかたくさんの カニがあらわれ、なんじゅう なんびゃくもの ハサミでヘビを きりきざもうと とっしんしたのです。
さすがのヘビも あまりのかずのカニには たちうちできず、いちもくさんに にげかえって行きました。

つぎの日、カニにたすけられた むすめは、これもかんのんさまの おかげだと、三室戸寺(みむろとじ)に おれいのおまいりに 出かけました。
雨がふっていましたが、おれいを もうし上げるのは早いほうがいいと むすめはおもい、かさをさして 出かけました。てくてくあるいて、寺のさんどうの はしを わたりきったところで、むすめは なにやら だれかに見られているような気になりました。ふりかえってみると、はしの上にヘビがいました。

ヘビはかなしそうな目をして、むすめを見つめていました。そしてかおを そむけるように、するすると にげきえてしまったのです。

それからというもの、そのはしには 雨がふると ヘビのかげが 出るようになったそうな。
こうしたことから、はしは ひとびとから「蛇体橋(じゃたいばし)」とよばれているのです。

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 三室戸寺

三室戸寺

観音信仰の西国三十三ヶ所巡礼の十番札所。ツツジ、アジサイ、ハスの寺としても知られています。蛇体橋はこの寺の参道にあります


よみ みむろとじ
住所 京都府宇治市莵道滋賀谷21
電話 0774-21-2067
時間 4月~10月 8時半~16時受付、
11月~3月 ~15時半受付
定休 12/29~31
料金 大人500円、子供300円
その他  

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画像引用:三室戸寺様(http://www.mimurotoji.com/)