【大阪府】雁塔物語

雁塔物語 大阪府四条畷市
動物かなしい

一般向け かんじすくなめ こどもむけ

むかしむかし、冬の始まりのころです。山の麓の里にひとりの猟師が住んでいました。ある朝、猟師はいつものように弓と矢を手にして、家を出て行きました。
里のはずれまで来ると、猟師はぼうぼうに生えた草の陰に身を隠し、田んぼを眺めました。稲刈りも終わって、すっかり寂しくなった田んぼには何羽かのガンが、のんびり歩いていました。

「いたぞ…」
猟師が潜んでいると気付いていないのでしょう。2羽のガンが、猟師のいる方へやって来ました。
「もうちょいと、こっちへ来い…こっちへ来い…」

「今じゃ…!」
猟師は矢を放ちました。矢は瞬く間に、2羽のうち左側にいたガンに命中しました。
「よし!」
猟師は大きく頷きました。

射られたガンを見たもう1羽のガンは、驚いて羽をばたばたと動かし、もはや動かなくなったガンをじっと見つめました。なんだか悲しそうな仕草にも見えましたが、猟師が近づいて来ると判ると、危ないと思ったのでしょう、飛んで逃げて行ってしまいました。

草の陰から出て来た猟師は、倒れたガンを見てびっくりしてしまいました。射止めたガンには首から上が無かったのです。
「首を狙ったわけでもないんじゃが。矢が当たって首を飛ばしてしもうたんじゃろうか…」
猟師は不思議に思いました。

飛んでいる雁

春になりました。猟師は首の取れたガンのことなどすっかり忘れ、いつものように朝早くから猟に出かけました。
そして運良く、1羽のガンを見つけました。
「よおし、動くなよ…」
猟師は狙いを定めて矢を射りました。矢はみごとにガンに当たり、ガンはその場で動かなくなりました。

駆け寄った猟師がガンを持ちあげると、ガンの翼の下からポトリと何かが落ちました。それはガンの首でした。
猟師は冬の初めに首がないガンを捕えたことを思い出しました。
「あのときのガンの首じゃったのか…」
そうです。あの2羽のガンは夫婦だったのでした。

この雌のガンは、矢に射られて死んでしまった雄のガンの首を咄嗟に食いちぎり、形見として持ち去ったのです。そして翼の下でずっと温め続けていたのでした。
「なんとむごいことをしてしもうたのか…」
猟師は涙を流しました。

ひとしきり泣いた猟師は、その場で弓と矢を折って捨ててしまいました。そして石で塔を建てて、花を供え、2羽のガンを供養したのでした。
その後、猟師は猟をやめて、お坊さんになったのだそうな。

むかしむかし、ふゆの始まりのころです。山のふもとの里に ひとりのりょうしが 住んでいました。あるあさ、りょうしは いつものように 「ゆみ」と「や」を 手にして、家を 出て行きました。
里のはずれまで 来ると、りょうしは ぼうぼうに生えた くさのかげに みをかくし、田んぼを ながめました。いねかりも おわって、すっかりさびしくなった 田んぼには 何わかの ガンが、のんびり歩いていました。

「いたぞ…」
りょうしが ひそんでいると 気づいていないのでしょう。2わのガンが、りょうしの いる方へ やって来ました。
「もうちょいと、こっちへ来い…こっちへ来い…」

「今じゃ…!」
りょうしは 「や」を はなちました。「や」は またたくまに、2わのうち 左がわにいた ガンにめいちゅうしました。
「よし!」
りょうしは 大きくうなづきました。

いられたガンを見た もう1わのガンは、おどろいて はねを ばたばたとうごかし、もはやうごかなくなった ガンをじっと 見つめました。なんだかかなしそうな しぐさにも 見えましたが、りょうしが 近づいて来ると わかると、あぶないと 思ったのでしょう、とんでにげて 行ってしまいました。

くさのかげから 出て来たりょうしは、たおれたガンを見て びっくりしてしまいました。いとめたガンには くびから上が なかったのです。
「くびを ねらったわけでも ないんじゃが。『や』があたって くびを とばして しもうたんじゃろうか…」
りょうしは ふしぎに思いました。

飛んでいる雁

はるに なりました。りょうしは くびのとれた ガンのことなど すっかりわすれ、いつものように あさ早くから りょうに 出かけました。
そして うんよく、一わのガンを 見つけました。
「よおし、うごくなよ…」
りょうしは ねらいをさだめて 「や」をいりました。「や」は みごとに ガンにあたり、ガンはそのばで うごかなくなりました。

かけよったりょうしが ガンを もちあげると、ガンの つばさの下から ポトリと 何かがおちました。それはガンの くびでした。
りょうしは ふゆのはじめに くびがないガンを とらえたことを 思い出しました。
「あのときの ガンの くびじゃったのか…」
そうです。あの2わの ガンは ふうふだったのでした。

このメスのガンは、「や」にいられて しんでしまった オスのガンのくびを とっさに くいちぎり、かたみとして もちさったのです。そしてつばさの下で ずっとあたため つづけていたのでした。
「なんと むごいことを してしもうたのか…」
りょうしは なみだを ながしました。

ひとしきり ないたりょうしは、そのばで 「ゆみ」と「や」を おって すててしまいました。そして いしで 「とう」をたてて、花をそなえ、2わのガンを くようしたのでした。
そのご、りょうしは りょうをやめて、おぼうさんに なったのだそうな。


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