むかしがたり

仲良しの二人の旅人が、宿のおかみに騙されて…「旅人馬」

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旅人馬 島根県

  • ちょっとこわいどうぶつ

一般向け かんじすくなめ こどもむけ

むかしむかし、あるところに、お金持ちの家の男の子と貧しい家の男の子がおり、二人はいつも仲良く遊んでいました。大きくなったら一緒に旅に出たいと、ずっと願っていて、二人のそれぞれの両親も「旅も勉強のうちだ」と反対しませんでした。
二人はすくすくと成長し、立派な若者になりました。そして二人仲良く揃って旅に出発したのです。

何日も何日も二人は歩きました。どれくらい歩いたでしょう。ずいぶん遠くまで来ました。やがて日が暮れてしまいましたが、そこは二人の他には誰もいない山の中。
「腹が減ったなあ」
「そうだなあ。休みてえなあ」
歩き疲れた二人が、もうこれ以上歩けないというところまできたあたりで、遠くに小さな明かりが見えました。
「家じゃ。家があるぞ」
「おお、地獄に仏だ。頼んで今晩泊めてもらおう」
二人はその家まで何とかたどり着き、戸を叩きます。すぐに中からおかみさんが出てきました。
「突然ですまんが、今夜泊めてもらえんじゃろか」
そう尋ねると、おかみさんは二コリともせずに答えました。
「うちは宿屋やから、もちろん泊っていきなさいな」
「そりゃありがてえ。じゃあ、厄介になります」

歩き疲れたせいか、お金持ちの家の男はすぐにぐっすり寝てしまいました。しかし、貧しい家の男はなかなか寝付けません。何やら隣の部屋でもぞもぞと物音がするので、貧しい家の男は足音を立てないように近付いて、そっと隙間から覗いてみました。
もぞもぞ動いていたのはおかみさんでした。囲炉裏の灰に棒きれで線を引いて畝を作り、そこへ何かの種を蒔いていました。種はあっという間に芽を出し、あっという間に茎が伸びて葉を茂らせ、あっという間に稲穂ができました。

おかみさんは稲を刈り取って、籾を取り除き、米粒を石臼で挽いて粉にして、団子を作りました。
ずっと覗いていた貧しい家の男は、冷や汗をだらだらかいています。
あんなわずかな時間に種が稲穂になって団子を拵えてしまうなんて、あのおかみさんは妖怪か何かに違いない…そう思うと怖くて仕方ありませんでしたが、やはり旅の疲れが溜まっていたのでしょう。男もそのままぐっすり眠ってしまいました。

朝、囲炉裏へ出てみると、昨晩おかみさんが作った団子が並んでいました。
「おお、これは旨そうだ」
お金持ちの家の男は、舌なめずりしています。しかし貧しい家の男は昨晩の様子を見ていたので、とてもではありませんが、食べる気にはなりません。目の前におかみさんがいるので、口に出して説明するわけにもいかず、仕方なくお金持ちの男の肘をつついたり、つねったりしてみましたが、通じるはずがありませんでした。

「うんうん、旨い旨い」
そう言ってお金持ちの男が、ふたつめの団子を食べてしまった時のことです。
「ん…ううう…」
突然お金持ちの男がうめき声を上げたかと思うと、たちまちのうちに、その姿が人から馬に変わってしまいました。
「なんじゃこれは!」
貧しい家の男はびっくりしてしまいます。
「さあさ、お前も団子をお食べ…」
おかみさんは団子の皿を突き付けて、にやりと笑いました。

あまりの恐ろしさに、貧しい家の男は一目散に走り出します。気がつけば山を越えた村まで来ていました。走り疲れて倒れてしまった男を見つけたおじいさんが、冷たい水を飲ませてくれました。
「どうしたんじゃ。こんな疲れ切ってしもうて」
優しいおじいさんの言葉に、貧しい家の男は涙ながらに事情を答えました。
おじいさんは、少し唸ってから言葉を継ぎました。

「馬になってしもうたのなら、人間に戻せばええ。ほれ、この道のさらに向こうのまた向こうまで行けばな、一面の茄子畑があるで。
そこの畑にな、一本の茎に七つの実が東を向いて生っているのがある。それをな、七つとも食わせてやりなされ。すぐに人に戻られよう」

茄子

貧しい家の男はすぐにまた走り出しました。道の向こうのまた向こうまで行くと、おじいさんが言った通り、一面に広がる茄子の畑がありました。
早速、男は東に向かって七つの実が生った茎を探します。
「これは違う、これも違う…」
五つや六つの実が生った茎は見つかりますが、七つもの実が東を向いて生った茎はなかなか見つかりません。

それでも諦めずに一生懸命探したところ、ようやく東に向かって七つの実が生った茎を見つけました。
「あった!やったぞ!」
嬉しさのあまり跳びあがる男。今度は来た道を風のように駆けて戻りました。

あの宿屋に戻ると、ちょうど馬になってしまったお金持ちの家の男が、畑仕事を終えて休んでいるところでした。よほどこき使われたのでしょう。ぴくりとも動きません。
貧しい家の男は持ち帰った茄子を馬の口元に押しつけて言いました。
「早くこれを食べるんだよ。食べたら元の姿に戻られるんだから」
馬は素直にむしゃむしゃと一つ二つと茄子を食べましたが、さすがに四つも食べたらおなかいっぱいになってしまいました。なかなか五つ目を食べようとしません。

「食べんと、ずっと馬のままだぞ。それでもいいのかえ?」
貧しい家の男は、半ば無理に残りの茄子を馬の口に詰め込みました。そして七つ目の茄子を食べ終わった途端、馬の姿だったお金持ちの家の男はみるみると元の姿に戻りました。
「おお、よかったよかった」
「ありがとう、ありがとう」
「じゃあ、おかみさんに見つからないうちに逃げねばならん」
二人は駆け足で逃げ出し、ようやく旅の続きをすることができるようになりました。

それからあちこちを歩いて回り、長い旅から帰った二人は、家の者に旅の出来事を話して聞かせました。
「そうか。命を救ってもらったか」
お金持ちの男の親は感激して、貧しい家の男に財産の半分を分けてやることにしました。
こうして二人はその後も仲良く暮らしたんだそうな。

むかしむかし、あるところに、お金もちの家の男の子と まずしい家の男の子がおり、ふたりはいつも なかよくあそんでいました。大きくなったら いっしょに たびに出たいと、ずっとねがっていて、ふたりのそれぞれの りょうしんも「たびも べんきょうのうちだ」と はんたいしませんでした。
ふたりはすくすくと せいちょうし、りっぱな わかものになりました。そしてふたりなかよく そろってたびに しゅっぱつしたのです。

何日も何日もふたりは あるきました。どれくらい あるいたでしょう。ずいぶん とおくまで来ました。やがて日が くれてしまいましたが、そこはふたりのほかには だれもいない山の中。
「はらが へったなあ」
「そうだなあ。休みてえなあ」
あるきつかれた ふたりが、もうこれいじょう あるけないというところまで きたあたりで、とおくに小さなあかりが 見えました。
「家じゃ。家があるぞ」
「おお、じごくに ほとけだ。たのんで こんばんとめてもらおう」
ふたりはその家まで 何とかたどりつき、「と」をたたきます。すぐに中からおかみさんが 出てきました。
「とつぜんですまんが、こんや とめてもらえんじゃろか」
そうたずねると、おかみさんは 二コリともせずに こたえました。
「うちは『やどや』やから、もちろんとまって いきなさいな」
「そりゃありがてえ。じゃあ、やっかいになります」

あるきつかれたせいか、お金もちの家の男は すぐにぐっすり ねてしまいました。しかし、まずしい家の男は なかなか ねつけません。何やら となりのへやで もぞもぞと ものおとがするので、まずしい家の男は 足音を立てないように ちかづいて、そっとすきまから のぞいてみました。
もぞもぞ うごいていたのは おかみさんでした。いろりの「はい」に ぼうきれで せんをひいて 「うね」を作り、そこへ何かのタネを まいていました。タネはあっというまに めを出し、あっという間まに くきがのびて 「は」をしげらせ、あっというまに いなほができました。

おかみさんは イネをかりとって、「もみ」をとりのぞき、こめつぶを 「いしうす」でひいて こなにして、だんごをつくりました。
ずっとのぞいていた まずしい家の男は、ひやあせを だらだらかいています。
あんなわずかなじかんに タネがいなほになって だんごを こしらえてしまうなんて、あのおかみさんは ようかいか何かにちがいない…そうおもうと こわくて しかたありませんでしたが、やはりたびのつかれが たまっていたのでしょう。男もそのままぐっすり ねむってしまいました。

あさ、いろりへ出てみると、さくばん おかみさんが作った だんごが ならんでいました。
「おお、これは うまそうだ」
お金もちの家の男は、したなめずりしています。しかし まずしい家の男は さくばんのようすを 見ていたので、とてもではありませんが、たべる気にはなりません。目の前におかみさんがいるので、口に出して せつめいするわけにもいかず、しかたなく お金もちの男の ひじをつついたり、つねったりしてみましたが、つうじるはずがありませんでした。

「うんうん、うまいうまい」
そう言ってお金もちの男が、ふたつめのだんごを たべてしまった時のことです。
「ん…ううう…」
とつぜん お金もちの男が うめきごえを 上げたかとおもうと、たちまちのうちに、そのすがたが 人からウマにかわってしまいました。
「なんじゃこれは!」
まずしい家の男はびっくりしてしまいます。
「さあさ、お前も だんごをおたべ…」
おかみさんはだんごのさらを つきつけて、にやりと わらいました。

あまりのおそろしさに、まずしい家の男はいちもくさんに 走り出します。気がつけば山をこえた村まで来ていました。走りつかれて たおれてしまった男を見つけたおじいさんが、つめたい水を のませてくれました。
「どうしたんじゃ。こんなつかれ切ってしもうて」
やさしいおじいさんのことばに、まずしい家の男は なみだながらに じじょうをこたえました。
おじいさんは、少しうなってから ことばをつぎました。

「ウマになってしもうたのなら、にんげんに もどせばええ。ほれ、このみちの さらにむこうの またむこうまで行けばな、いちめんの ナスばたけがあるで。
そこのはたけにな、一本の『くき』に七つの『み』が ひがしをむいて なっているのがある。それをな、七つとも くわせてやりなされ。すぐに人に もどられよう」

茄子

まずしい家の男は すぐにまた走り出しました。みちのむこうの またむこうまで行くと、おじいさんが言ったとおり、いちめんにひろがる ナスのはたけがありました。
さっそく、男はひがしにむかって 七つの「み」がなった「くき」をさがします。
「これはちがう、これもちがう…」
五つや六つの「み」がなった「くき」は見つかりますが、七つもの「み」が ひがしをむいてなった「くき」は なかなか見つかりません。

それでもあきらめずに いっしょうけんめい さがしたところ、ようやくひがしにむかって 七つの「み」がなった「くき」を見つけました。
「あった!やったぞ!」
うれしさのあまり とびあがる男。こんどは来たみちを かぜのように かけてもどりました。

あの「やどや」にもどると、ちょうどウマになってしまった お金もちの家の男が、はたけしごとをおえて 休んでいるところでした。よほど こきつかわれたのでしょう。ぴくりとも うごきません。
まずしい家の男は もちかえったナスを ウマの口もとに おしつけて言いました。
「早くこれを たべるんだよ。たべたらもとのすがたに もどられるんだから」
ウマはすなおに むしゃむしゃと一つ二つと ナスをたべましたが、さすがに四つもたべたら おなかいっぱいに なってしまいました。なかなか五つ目を たべようとしません。

「たべんと、ずっとウマのままだぞ。それでもいいのかえ?」
まずしい家の男は、なかば むりに のこりのナスを ウマの口に つめこみました。そして七つ目のナスを たべおわったとたん、ウマのすがただった お金もちの家の男は みるみると もとのすがたに もどりました。
「おお、よかったよかった」
「ありがとう、ありがとう」
「じゃあ、おかみさんに見つからないうちに にげねばならん」
ふたりは かけ足で にげ出し、ようやく たびのつづきを することができるようになりました。

それからあちこちを あるいてまわり、ながいたびから かえったふたりは、家のものに たびのできごとを はなしてきかせました。
「そうか。いのちを すくってもらったか」
お金もちの男のおやは かんげきして、まずしい家の男に ざいさんのはんぶんを 分けてやることにしました。
こうしてふたりは そのごも なかよくくらしたんだそうな。