むかしがたり

耳が遠いおばあさんの聞き違いで思わぬ方向に!…「さきざきさん」

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さきざきさん 岡山県

  • おもしろ

一般向け かんじすくなめ こどもむけ

むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが二人で暮らしておりました。二人は一生懸命に働いてコツコツとお金を貯め、お金を甕の中に入れていました。
「このお金は、先々のために貯めておくんじゃから、大事に大事にするんじゃよ」
おじいさんはおばあさんにそう言って聞かせました。おばあさんはそれはもう大層素直な人でした。素直過ぎたものですから、おじいさんの言いつけをしっかり守らないといけないと考えます。
「大事なお金が無くならないよう、気をつけにゃあならん」
と思い、いつも甕を取り出しては、お金がちゃんとあるか数えていました。

ある日のことです。
おばあさんがまたまたお金を数えているときに、ひとりの男が訪ねてきました。
「すまんが、なにか余り物があれば、くれないかい」
「余り物と言っても、うちには何も無いんじゃが…」
おばあさんは困った顔で答えました。
「ほなら、今あんたが数えておるお金をくれないかい」
おばあさんはますます困った顔を作ります。
「このお金は、先々のために貯めたものなので、あげるわけにはいかないんじゃよ」
男はそこで諦めるはずもなく、おばあさんを騙してしまおうと思い立ちました
「先々なら、このわしが『さきざき』じゃ」
素直なおばあさんはびっくり。
「あんたが『さきざきさん』でしたか。そうとは知らずに失礼しました。じゃあ、このお金、持って行ってくださいな」
「あいよ。ありがとさん、もらっていくよ」
男は甕のお金を全部持って行ってしまいました。

帰ってきたおじいさんは、話を聞いてもっとびっくり。
「先々っていうのはな、わしらの将来っていう意味じゃろが! あのお金が無くては、年を越すこともできんじゃないか。なんてことをしてくれたんだ…」
困ってしまった二人は、家を捨てて夜逃げすることにしたのです。

夜になりました。
家を捨てて逃げる準備ができた二人。おじいさんがおばあさんに小声で言いました。
「ほな、行こうか。戸を閉めておきなさい」
しかし、おばあさんは耳が遠いのでおじいさんの声がよく聞こえません。
「戸を持って行くんかえ?」
「違う違う。戸を閉めろと言ったんじゃ」
おじいさんがそう答えても、なんせ小声でしたから、やっぱりおばあさんには「戸を持って行け」に聞こえてしまいます。
「戸を持って行くんじゃな」
そう言って戸を外そうとするもんですから、おじいさんはもう馬鹿馬鹿しくなって先に行ってしまいました。

なんとか戸を外したおばあさんは、それを背中に担いで一生懸命おじいさんの後を追いました。
重たい戸を担いで山の峠道を登ったものですから、おばあさんはもうくたくたです。
「おじいさん、一休みしましょうよ」
おじいさんも歩き疲れていたので賛成して、二人は峠の大きな木の根元に腰をおろしました。

大木

二人はしばらく休んでいましたが、なにやら遠くから人の声が聞こえてきました。夜逃げをしているわけですから、人に見つかるわけにはいきません。
「誰か来るぞ。ばあさんや、この木の上に登って隠れようや」
おじいさんはすぐに木に登り始めました。
「この戸はどうするかえ?」
おばあさんが尋ねると、
「そんなもん、置いておけばええ」
そう返したおじいさんでしたが、おばあさんは耳が遠いのです。
「持って上がるんかえ」
そう言って大きな戸をえっちらおっちら背負って、木によじ登りました。
なんとか戸を持ったまま木の上に辿りついたおばあさんに、おじいさんは呆れてしまって何も言えません。

やがて話し声の主たちが木の下までやって来ました。
彼らも一休みするのでしょう、木の下によいしょと座り込みました。
よくよく見てみると、その声の主は昼間おばあさんからお金をだまし取った「さきざきさん」だったのです。さきざきさんはご機嫌で大笑い。
「いやあ、今日は儲かった儲かった。こんなにたくさんお金を取って来たんじゃからな」
そう言って、あの甕を取り出してはニヤニヤしています。

かたや、木の上ではおばあさんが細い腕で大きな戸を持って我慢していましたが、我慢ももう限界まで来ていました。なにせ重くて重くて仕方ないのです。
「おじいさんや、重いんじゃ…手を離してもいいかえ?」
「ダメじゃダメじゃ。下におる者に見つかってしまうじゃろうが」
「でももう、手が痺れてしまって、堪えられん」
そう言うと、おばあさんは戸を持つ手を離してしまいました。
それはもう大きな音とともに戸が落ちて、しかも「さきざきさん」の頭に命中したもんですから、他の者も度肝を抜かれました。さきざきさんも痛いよりもただただ怖くて仕方ありません。みんな一目散に走って逃げてしまいました。

誰もいなくなったので、二人はそおっと木から下りてみました。するとそこには「さきざきさん」が持って行ったお金の入った甕が、そのまま残されていました。二人は大喜びで甕を持って家に帰り、それからは何不自由なく暮らしたのだそうな。

むかしむかし、あるところに、おじいさんと おばあさんが ふたりで くらしておりました。ふたりは いっしょうけんめいに はたらいて コツコツと お金をため、お金を「かめ」の中に入れていました。
「このお金は、『さきざき』のために ためておくんじゃから、だいじに だいじにするんじゃよ」
おじいさんは おばあさんにそう言ってきかせました。おばあさんは それはもうたいそう すなおな人でした。すなおすぎたものですから、おじいさんの言いつけをしっかり まもらないといけないと かんがえます。
「だいじなお金が なくならないよう、気をつけにゃあならん」
とおもい、いつも「かめ」をとり出しては、お金がちゃんとあるか かぞえていました。

ある日のことです。
おばあさんがまたまたお金を かぞえているときに、ひとりの男が たずねてきました。
「すまんが、なにか あまりものがあれば、くれないかい」
「あまりものと言っても、うちには何もないんじゃが…」
おばあさんは こまったかおで こたえました。
「ほなら、今あんたが かぞえておるお金をくれないかい」
おばあさんはますます こまったかおを作ります。
「このお金は、『さきざき』のために ためたものなので、あげるわけにはいかないんじゃよ」
男はそこで あきらめるはずもなく、おばあさんを だましてしまおうと おもい立ちました
「『さきざき』なら、このわしが『さきざき』じゃ」
すなおな おばあさんはびっくり。
「あんたが『さきざきさん』でしたか。そうとはしらずに しつれいしました。じゃあ、このお金、もって行ってくださいな」
「あいよ。ありがとさん、もらっていくよ」
男は「かめ」のお金を ぜんぶもって行ってしまいました。

かえってきたおじいさんは、はなしをきいて もっとびっくり。
「『さきざき』っていうのはな、わしらの しょうらいっていう いみじゃろが! あのお金がなくては、年をこすことも できんじゃないか。なんてことを してくれたんだ…」
こまってしまったふたりは、家をすてて よにげすることにしたのです。

よるになりました。
家をすてて にげるじゅんびが できたふたり。おじいさんがおばあさんに こごえで言いました。
「ほな、行こうか。『と』をしめておきなさい」
しかし、おばあさんは 耳がとおいので おじいさんのこえが よくきこえません。
「『と』をもって行くんかえ?」
「ちがうちがう。『と』をしめろと言ったんじゃ」
おじいさんが そうこたえても、なんせこごえでしたから、やっぱりおばあさんには「『と』をもって行け」に きこえてしまいます。
「『と』をもって行くんじゃな」
そう言って「と」を はずそうとするもんですから、おじいさんはもう ばかばかしくなって 先に行ってしまいました。

なんとか「と」をはずした おばあさんは、それをせなかにかついで いっしょうけんめい おじいさんのあとを おいました。
おもたい「と」をかついで 山のとうげみちを のぼったものですから、おばあさんは もうくたくたです。
「おじいさん、ひと休みしましょうよ」
おじいさんも あるきつかれていたので さんせいして、ふたりは とうげの大きな木のねもとに こしをおろしました。

大木

ふたりはしばらく休んでいましたが、なにやらとおくから 人のこえが きこえてきました。よにげをしているわけですから、人に見つかるわけにはいきません。
「だれか来るぞ。ばあさんや、この木の上に のぼってかくれようや」
おじいさんは すぐに木に のぼりはじめました。
「この『と』はどうするかえ?」
おばあさんがたずねると、
「そんなもん、おいておけばええ」
そうかえした おじいさんでしたが、おばあさんは 耳がとおいのです。
「もって上がるんかえ」
そう言って大きな「と」を えっちらおっちら せおって、木によじのぼりました。
なんとか「と」をもったまま 木の上に たどりついたおばあさんに、おじいさんは あきれてしまって 何も言えません。

やがてはなしごえの ぬしたちが 木の下までやって来ました。
かれらも ひと休みするのでしょう、木の下に よいしょと すわりこみました。
よくよく見てみると、そのこえのぬしは ひるま おばあさんから お金をだましとった「さきざきさん」だったのです。さきざきさんは ごきげんで大わらい。
「いやあ、きょうは もうかったもうかった。こんなにたくさん お金をとって来たんじゃからな」
そう言って、あの「かめ」をとり出しては ニヤニヤしています。

かたや、木の上では おばあさんが ほそいうでで 大きな「と」をもって がまんしていましたが、がまんも もうげんかいまで来ていました。なにせおもくて おもくてしかたないのです。
「おじいさんや、おもいんじゃ…手をはなしてもいいかえ?」
「ダメじゃダメじゃ。下におるものに 見つかってしまうじゃろうが」
「でももう、手がしびれてしまって、こらえられん」
そう言うと、おばあさんは 「と」をもつ手を はなしてしまいました。
それはもう 大きな音とともに 「と」がおちて、しかも「さきざきさん」のあたまに めいちゅうしたもんですから、ほかのものも どぎもをぬかれました。さきざきさんも いたいよりも ただただこわくて しかたありません。みんな いちもくさんにはしって にげてしまいました。

だれもいなくなったので、ふたりはそおっと 木から下りてみました。するとそこには「さきざきさん」がもって行った お金の入った「かめ」が、そのままのこされていました。ふたりは大よろこびで 「かめ」をもって いえにかえり、それからは何ふじゆうなく くらしたのだそうな。