むかしがたり

長者同士の宝物くらべ。勝ったのはどちら?…「長者の宝くらべ」

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長者の宝くらべ 香川県

  • おもしろ

一般向け かんじすくなめ こどもむけ

むかしむかし、坂出(さかいで)という町に城山(きやま)の長者と金山(かなやま)の長者という、二人の長者が住んでいました。

城山の長者の家は山の上にあり、長者の家へ登る坂道は毎日大勢の人が行き来していました。その様子を見た人が、
「あの人の列はどこへ何しに行くんだね」
と尋ねました。
「あれはな、城山の長者の乙姫様を見に行っているんじゃ」
「そうそう。乙姫様はそりゃあもう、かわいらしい姫様じゃからな」
「わしも見に行ってみようかのう」

町の人が口を開けば乙姫の噂話ばかり。その噂は金山の長者の耳にも入ってきました。金山の長者は羨ましくて仕方がありません。
「町の皆が城山の長者にばかり注目するのは、どうも面白くないな。なんとかしてわしも注目を浴びたいもんだが、残念ながらわしには娘はおらん…」

うんうん唸って考えた金山の長者は、ふとひらめきました。
「そうじゃ。我が家には先祖代々伝わる宝物があるではないか。これで勝負をして勝てばいいんじゃ」

早速、金山の長者は宝くらべをしようと書いた手紙を城山の長者に届けさせます。
そして職人にたくさんお金を渡して、きらきらと飾り立てた立派な車を作らせました。
車が出来上がると、家じゅうの金やら銀やら、貝殻で美しい細工を施した箱やら、織物やらを積み込んで、城山の長者の家まで出向いて行きました。

着物姿の姫君

宝くらべの噂を聞いた町の人たちも大勢やって来ました。金山の長者が運んできた宝物を車から出すたびに、どよめきの声が上がります。
「見事な宝じゃなあ」
「まばゆいばかりで溜め息が出るのう」
町の人は皆ざわめきました。

続いて城山の長者が車を引き寄せました。車の中からゆっくりと姿を見せたのは、乙姫でした。
「わしの宝物はわしの娘じゃ」
城山の長者がそう言うと、町の人は次々と、
「わしは乙姫様がいい」
「わしもじゃ。やさしくてきれいな乙姫様が一番じゃ」
町の人はこう言って次々と乙姫のそばに群がります。ついには金山の長者の宝物には、誰も見向きもしなくなってしまいました。

宝くらべで負けてしまった金山の長者は大層悔しがりました。
「こんな役に立たない宝物なんか要らぬわ」
そう言って金やら銀やら織物やらを全部、海に捨ててしまったのです。

それからというもの、金山の海で獲れる鯛は、鱗がキラキラと金色に輝くようになりました。この鯛は大層美味しく、見た目にも美しいということで、「金山鯛」と名付けられ、大層もてはやされたのだそうな。

むかしむかし、坂出(さかいで)という町に城山(きやま)のちょうじゃと 金山(かなやま)のちょうじゃという、ふたりのちょうじゃが すんでいました。

きやまのちょうじゃの家は 山の上にあり、ちょうじゃの家へ のぼるさかみちは まいにちおおぜいの人が行き来していました。そのようすを見た人が、
「あの人のれつは どこへ何しに行くんだね」
とたずねました。
「あれはな、きやまのちょうじゃの おとひめさまを見に行っているんじゃ」
「そうそう。おとひめさまは そりゃあもう、かわいらしい ひめさまじゃからな」
「わしも見に行ってみようかのう」

町の人が口をひらけば おとひめの うわさばなしばかり。そのうわさは かなやまのちょうじゃの 耳にも入ってきました。かなやまのちょうじゃは うらやましくて しかたがありません。
「町のみなが きやまのちょうじゃにばかり ちゅうもくするのは、どうもおもしろくないな。なんとかしてわしも ちゅうもくを あびたいもんだが、ざんねんながら わしには むすめはおらん…」

うんうんうなってかんがえた かなやまのちょうじゃは、ふとひらめきました。
「そうじゃ。わがやには せんぞだいだいつたわる たからものがあるではないか。これでしょうぶをして かてばいいんじゃ」

さっそく、かなやまのちょうじゃは たからくらべをしようと かいたてがみを きやまのちょうじゃに とどけさせます。
そしてしょくにんに たくさんお金をわたして、きらきらとかざり立てた りっぱな車を作らせました。
車ができあがると、家じゅうの金やら「ぎん」やら、かいがらでうつくしいさいくを ほどこした「はこ」やら、おりものやらを つみこんで、きやまのちょうじゃの家まで 出むいて行きました。

着物姿の姫君

たからくらべのうわさを 聞いた町の人たちも おおぜいやって来ました。かなやまのちょうじゃが はこんできたたからものを 車から出すたびに、どよめきのこえが 上がります。
「みごとなたからじゃなあ」
「まばゆいばかりで ためいきが出るのう」
町の人はみな ざわめきました。

つづいてきやまのちょうじゃが 車をひきよせました。車の中からゆっくりと すがたを見せたのは、おとひめでした。
「わしのたからものは わしのむすめじゃ」
きやまのちょうじゃが そう言うと、町の人はつぎつぎと、
「わしはおとひめさまがいい」
「わしもじゃ。やさしくてきれいな おとひめさまがいちばんじゃ」
町の人はこう言って つぎつぎとおとひめのそばに むらがります。ついには かなやまのちょうじゃのたからものには、だれも見むきもしなくなってしまいました。

たからくらべで まけてしまった かなやまのちょうじゃは たいそうくやしがりました。
「こんなやくに立たない たからものなんか いらぬわ」
そう言って金やら「ぎん」やら おりものやらをぜんぶ、うみにすててしまったのです。

それからというもの、かなやまのうみでとれるタイは、うろこがキラキラと 金色にかがやくようになりました。このタイは たいそうおいしく、見た目にもうつくしいということで、「かなやまだい」と名づけられ、たいそうもてはやされたのだそうな。