むかしがたり

毎日新しくなる仏壇ってどんな仏壇?「与一の仏壇」

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与一の仏壇 福井県福井市

  • おもしろ

一般向け かんじすくなめ こどもむけ

むかしむかし、ある村一番の金持ちが仏壇を買いました。それはそれは立派な仏壇で、家の主人はことあるごとにその仏壇を自慢しておりました。

「こんな見事な仏壇は、そうなかなかあるもんじゃねえ。この輝き、神々しさ、立派なもんじゃろう」
家に来る客の誰にでもそうやって自慢しては、ニヤニヤと喜んでいたのです。

あるとき、坊さんがお経をあげにこの家にやって来ました。主人は坊さんにまでも仏壇自慢を繰り出します。
ところが坊さん、落ち着き払った声でこう言いました。

「ううむ、そうじゃのう。確かにここまで素晴らしい仏壇はなかなか見ることができんが、それでも遠くの村の与一の仏壇には敵いやせん」

主人は驚いて、
「まさか。わしの仏壇より凄い仏壇があろうとか信じられん。本当の話かいね」
と返しました。
坊さんはますます唸るように
「うむ、そうじゃ。お前さんの仏壇は明日も明後日も来年も十年後も同じ仏壇じゃろ。気がつかぬうちに、だんだん古くなってきよる。
しかしな、与一の仏壇は毎日毎日必ず新しくなる。そんな仏壇に敵うわけがなかろうぞ」

仏壇

主人はびっくり仰天。毎日新しくなる仏壇とはどういうことなのでしょう。
坊さんのあまりに不思議な言葉に、居ても立ってもいられなくなった主人は、すぐさま遠くの村の与一の家へ向かいました。

人に尋ねて与一の家に着いてみると、そこは粗末な小さな家でした。とてもではありませんが、大きくて立派な仏壇がある家には思えません。
「何かの間違いじゃろうか」
怪訝に思いながらも、主人は与一の家の戸を叩きました。

「すまんが、仏壇を見せてくれんかのう」
そう頼むと、与一はにこりと微笑んで家の中に招き入れ、仏壇を指差します。
その仏壇を見た主人は、「ほほう!」と声を上げて感心してしまいました。

与一の仏壇は豪華な金箔で飾り立てたものではなく、大きくてどっしりとしたものでもありませんでした。
柴(しば)を編んで作った手作りの仏壇だったのです。

与一は毎朝起きると山へ入り、柴を刈って来ては、丹念にそれを水で洗って、切り揃え、糸を使って編み上げては簾(すだれ)のように仕立てていました。
それを台の上の仏様の、左右と後ろの三方を囲むように載せていたのです。

「毎日新しくなる仏壇とはこれのことじゃったのか」
与一の信心深さにはとうてい敵わんと思った主人は、それ以降は仏壇の自慢をしなくなったのだとか。

むかしむかし、ある村いちばんの金もちが ぶつだんを かいました。それはそれはりっぱな ぶつだんで、いえのしゅじんは ことあるごとに そのぶつだんを じまんしておりました。

「こんなみごとな ぶつだんは、そうなかなかあるもんじゃねえ。このかがやき、こうごうしさ、りっぱなもんじゃろう」
いえに来るきゃくの だれにでも そうやってじまんしては、ニヤニヤとよろこんでいたのです。

あるとき、ぼうさんが おきょうをあげに このいえにやって来ました。しゅじんは ぼうさんにまでも ぶつだんじまんを くり出します。
ところがぼうさん、おちつきはらったこえで こう言いました。

「ううむ、そうじゃのう。たしかにここまで すばらしいぶつだんは なかなか見ることができんが、それでもとおくの村の 与一(よいち)のぶつだんには かないやせん」

しゅじんはおどろいて、
「まさか。わしのぶつだんより すごいぶつだんがあろうとか しんじられん。ほんとうの はなしかいね」
とかえしました。
ぼうさんは ますますうなるように
「うむ、そうじゃ。おまえさんのぶつだんは あしたも あさっても らいねんも 10ねんごも 同じぶつだんじゃろ。気がつかぬうちに、だんだん古くなってきよる。
しかしな、与一のぶつだんは まいにちまいにち かならずあたらしくなる。そんなぶつだんに かなうわけがなかろうぞ」

仏壇

しゅじんは びっくりぎょうてん。まいにちあたらしくなる ぶつだんとは どういうことなのでしょう。
ぼうさんのあまりに ふしぎなことばに、いても立っても いられなくなった しゅじんは、すぐさまとおくの村の 与一のいえへ むかいました。

人にたずねて 与一のいえに ついてみると、そこはそまつな 小さないえでした。とてもではありませんが、大きくてりっぱな ぶつだんがある いえにはおもえません。
「なにかの まちがいじゃろうか」
けげんに おもいながらも、しゅじんは与一のいえの 「と」をたたきました。

「すまんが、ぶつだんを見せてくれんかのう」
そうたのむと、与一はにこりと ほほえんでいえの中に まねき入れ、ぶつだんを ゆびさします。
そのぶつだんを見た しゅじんは、「ほほう!」と こえを上げて かんしんしてしまいました。

与一のぶつだんは ごうかな「きんぱく」でかざり立てたものではなく、大きくて どっしりとしたものでもありませんでした。
「しば」をあんで 作った手作りの ぶつだんだったのです。

与一はまいあさ おきると山へ入り、「しば」をかって来ては、たんねんに それを水であらって、きりそろえ、いとをつかって あみ上げては 「すだれ」のように したてていました。
それを「だい」の上の ほとけさまの、左右と うしろのさんぽうを かこむように のせていたのです。

「まいにちあたらしくなる ぶつだんとは これのことじゃったのか」
与一の しんじんぶかさには とうていかなわんと おもったしゅじんは、それいこうは ぶつだんの じまんをしなくなったのだとか。

画像引用:浄土真宗門徒ひろば様(http://www.alpha-net.ne.jp/users2/porori/)