【静岡県】むると人穴

むると人穴 静岡県富士宮市
おもしろどうぶつ

一般向け かんじすくなめ こどもむけ

むかしむかし、富士山の麓の村に、貧しいおじいさんとおばあさんが暮らしていました。貧しくても幸せに過ごしていたふたり。着る物も食べる物も、高価な物は何もありませんでした。古い家と一頭の馬、そして少しばかりの食べものと、鍬と鎌があるだけでした。

ある夜、おじいさんとおばあさんが、いつものように粗末な夕食を食べていたときのことです。
家の屋根の梁の上に泥棒がひとり、そっと忍びこんできました。見るからに貧しい家なので、盗めるものといえば馬くらいだなあと泥棒は思いました。こうなれば、おじいさんとおばあさんが寝静まるのを待って、馬を盗んでしまおうと泥棒は心に決めました。

さて、家にいたのは、おじいさんとおばあさんと泥棒だけではありません。もう一匹、お腹を空かせたオオカミも家の玄関先に隠れていたのです。オオカミもまた、ふたりが寝静まるのを待って、馬を食べてしまおうと考えていました。

夕食を食べ終わったおばあさんが、おじいさんに話しかけました。
「じいさんや、この世で一番恐ろしい物って何じゃろうか」
「そりゃあ、泥棒じゃないかえ」
おじいさんは少し考えてこう答えました。梁の上に隠れていた泥棒は思わずにやりとしました。
「泥棒も怖いが、オオカミも怖くないかえ。わしらなんか食べられてしまうからのう」
「それもそうじゃのう」
玄関先で身を隠していたオオカミは、うんうんと首を縦に振りました。

「しかしじいさんや、よくよく思えば、泥棒よりオオカミより恐い物があった」
「なんじゃ?」
「『むる』じゃ」
「おお、それがあったな。『むる』は恐ろしいな」

泥棒とオオカミは「むる」とは一体何者なのかと考えました。
「今夜あたり『むる』が来そうじゃないかえ?」
「おお。そうじゃなあ。今夜は来るだろうなあ」
おじいさんとおばあさんの話を聞いていたオオカミは、だんだん怖くなってきました。そこへ雷が鳴り始め、突然強い雨がばらばらと降って来ます。雨でびしょ濡れになるのはかなわんと、オオカミは戸をそっと開けて玄関の中に入ろうとしました。

オオカミはそっと戸を開けたつもりでしたが、それでも戸が音を立ててしまいます。その音を聞いた泥棒は、
「おっ?馬が逃げようとしているのか」
と勘違い。馬を逃がしてはなるものかと、梁の上からオオカミの背中に飛び乗りました。

突然背中に飛びかかって来られたオオカミは、びっくり仰天。てっきり噂の「むる」が襲ってきたのだと早合点し、泥棒を背中に載せたまま、一目散に走り出しました。泥棒も馬を逃がしてはいけないと、必死でオオカミにしがみつきます。

どれだけ長い時間走り回ったことでしょう。だんだん夜が白んで来たあたりで、ようやく泥棒は自分が馬ではなくオオカミの背中に掴まっていることに気が付きました。
オオカミに食べられたら大変だと、背中を掴んでいた手を離す泥棒。突然手を離したものですから、勢い余ってゴロゴロと転がり、そのまま岩穴に落ちてしまいました。

一方、背中にしがみついていた「むる」がいなくなったことに気付いたオオカミは、くたくたになりながら森の住処へ戻りました。
げっそりしたオオカミの姿を見たサルは、大変心配して、何があったのか尋ねました。

サル

オオカミから話を聞いたサルは、放ってはおけないと「むる」退治に向かいます。
サルはオオカミから聞き出した、「むる」がいなくなった場所に行ってみました。そこには岩穴がありました。そうです。泥棒が落ちてしまった岩穴です。

岩穴は真っ暗で、中がどうなっているのかサルにも判りません。サルは長いしっぽを穴の中に垂らしてみました。
かたや泥棒は、穴から出られず困っていたところでした。そこへ長い紐のようなものがするすると下りてきたので、これ幸いと、掴んで穴をよじ登ろうとします。

急に強い力で尻尾を引っ張られたサルは、てっきり「むる」に引っ張られていると、勘違いしてしまいました。このまま岩穴の奥深くに引きずり込まれて、食べられてしまうと思ったサルは、必死で踏ん張りました。
泥棒もまた必死で尻尾をよじ登ろうと引っ張りました。しかしあまりに強く引っ張ったせいで、サルの尻尾はプチンとちぎれてしまいました。

それ以降、サルの尻尾は極端に短くなり、引っ張られたときの踏ん張りで、顔も真っ赤になってしまったのだそうです。
泥棒が落ちた岩穴もまた、人穴と呼ばれ、今でも残っています。
ちなみに、おじいさんとおばあさんが恐れていた「むる」とは、この辺りの言葉で「雨漏り」のことでした。泥棒とオオカミは、とんだ早とちりをしたものですね。

むかしむかし、富士山(ふじさん)の ふもとの村に、まずしいおじいさんと おばあさんが くらしていました。まずしくても しあわせに すごしていたふたり。きるものも 食べるものも、こうかなものは 何もありませんでした。古い家と 一とうのウマ、そして少しばかりの 食べものと、クワとカマがあるだけでした。

あるよる、おじいさんと おばあさんが、いつものように そまつなゆうしょくを 食べていたときのことです。
家のやねの「はり」の上に どろぼうがひとり、そっとしのびこんできました。見るからに まずしい家なので、ぬすめるものといえば ウマくらいだなあと どろぼうは思いました。こうなれば、おじいさんと おばあさんが ねしずまるのを まって、ウマをぬすんでしまおうと どろぼうは 心にきめました。

さて、家にいたのは、おじいさんと おばあさんと どろぼうだけではありません。もう一ぴき、おなかを空かせた オオカミも 家のげんかんさきに かくれていたのです。オオカミもまた、ふたりが ねしずまるのをまって、ウマを食べてしまおうと かんがえていました。

ゆうしょくを 食べおわった おばあさんが、おじいさんに はなしかけました。
「じいさんや、このよで 一ばんおそろしいものって 何じゃろうか」
「そりゃあ、どろぼうじゃないかえ」
おじいさんは 少しかんがえて こうこたえました。「はり」の上に かくれていたどろぼうは 思わず にやりとしました。
「どろぼうもこわいが、オオカミもこわくないかえ。わしらなんか 食べられてしまうからのう」
「それもそうじゃのう」
げんかんさきで みをかくしていた オオカミは、うんうんと くびをたてにふりました。

「しかしじいさんや、よくよく思えば、どろぼうより オオカミより こわいものがあった」
「なんじゃ?」
「『むる』じゃ」
「おお、それがあったな。『むる』は おそろしいな」

どろぼうと オオカミは 「むる」とは一体 何ものなのかと かんがえました。
「こんやあたり『むる』が 来そうじゃないかえ?」
「おお。そうじゃなあ。こんやは 来るだろうなあ」
おじいさんと おばあさんのはなしを 聞いていたオオカミは、だんだん こわくなってきました。そこへかみなりが なりはじめ、とつぜんつよい雨が ばらばらと ふって来ます。雨で びしょぬれになるのは かなわんと、オオカミは 「と」をそっとあけて げんかんの中に 入ろうとしました。

オオカミは そっと「と」を あけたつもりでしたが、それでも「と」が 音を立ててしまいます。その音を聞いた どろぼうは、
「おっ? ウマが にげようとしているのか」
とかんちがい。ウマを にがしてはなるものかと、「はり」の上から オオカミのせなかに とびのりました。

とつぜん せなかに とびかかって来られた オオカミは、びっくりぎょうてん。てっきり うわさの「むる」が おそってきたのだと はやがてんし、どろぼうを せなかに のせたまま、いちもくさんに 走り出しました。どろぼうも ウマをのがしてはいけないと、ひっしで オオカミに しがみつきます。

どれだけ長いじかん 走り回ったことでしょう。だんだん よるが しらんで来たあたりで、ようやくどろぼうは 自分がウマではなく オオカミのせなかに つかまっていることに 気がつきました。
オオカミに 食べられたら 大へんだと、せなかを つかんでいた手を はなすどろぼう。とつぜん手を はなしたものですから、いきおいあまって ゴロゴロところがり、そのままいわあなに おちてしまいました。

いっぽう、せなかに しがみついていた「むる」がいなくなったことに 気づいたオオカミは、くたくたになりながら 森のすみかへ もどりました。
げっそりした オオカミのすがたを 見たサルは、大へんしんぱいして、何があったのか たずねました。

サル

オオカミから はなしを聞いた サルは、ほうってはおけないと 「むる」たいじに 向かいます。
サルは オオカミから 聞き出した、「むる」が いなくなったばしょに 行ってみました。そこには いわあながありました。そうです。どろぼうが おちてしまった いわあなです。

いわあなは まっくらで、中がどうなっているのか サルにも わかりません。サルは 長いしっぽを あなの中に たらしてみました。
かたやどろぼうは、あなから出られず こまっていたところでした。そこへ長い ひものようなものが するすると 下りてきたので、これさいわいと、つかんで あなを よじのぼろうとします。

きゅうにつよい力で しっぽをひっぱられたサルは、てっきり「むる」に ひっぱられていると、かんちがいして しまいました。このままいわあなの おくふかくに ひきずりこまれて、食べられてしまう と思ったサルは、ひっしで ふんばりました。
どろぼうもまた ひっしでしっぽを よじのぼろうと ひっぱりました。しかしあまりに つよくひっぱったせいで、サルのしっぽは プチンと ちぎれてしまいました。

それいこう、サルのしっぽは きょくたんに短くなり、ひっぱられたときの ふんばりで、かおも まっかになってしまったのだそうです。
どろぼうが おちたいわあなもまた、「ひとあな」とよばれ、今でも のこっています。
ちなみに、おじいさんと おばあさんが おそれていた「むる」とは、このあたりの ことばで「雨もり」のことでした。どろぼうとオオカミは、とんだ早とちりをしたものですね。


むかしばなしの舞台へでかけよう

人穴富士講遺跡

人穴

人穴浅間神社の境内にある長さ約83メートルの溶岩洞穴。富士信仰の修行の場ともなっていた聖地で、洞内には、祠のほか碑塔と石仏4基が建立されていますが、中に立ち入ることはできません



よみ ひとあなふじこういせき
住所 静岡県富士宮市人穴206
電話 人穴富士講遺跡案内所(0544-52-1620・土曜、日曜、祝日のみ)
時間
休み なし
料金 無料
その他 ※人穴富士講遺跡案内所は土曜、日曜、祝日の10時~15時のみ開館

むかしばなしを地域からさがす

東日本 北海道・東北地方 関東地方 中部・東海・北陸地方 西日本 関西地方 中国・四国地方 九州・沖縄地方

こちらもチェック