むかしむかし、浜名湖から伊良湖(いらご)へ向かう途中にある赤沢(あかさわ)という漁村で、不思議なことが起きるようになりました。
月が見えない闇夜になると、海の中をぼやーっとした光の玉が浮いては沈み、浮いては沈みを繰り返すのです。あまりに奇妙な現象なので、村人は怖がってしまいました。
「ああ、恐ろしい。あの光の玉は何かとんでもないことが起きる前触れなのかもしれん」
「あの光は海の神さまのたたりで、漁の舟を沈めるらしいぞ」
村人たちは顔を合わせると、謎の光の玉の話をはじめます。噂は尾ひれが付いて大きくなり、海を怖がって漁に出る舟もなくなってしまいました。
漁に舟が出なくなると、魚も獲れません。だんだん村人の生活は苦しくなり、賑わいも消えてしまいます。村を通っていた旅人たちも、噂を耳にしたのでしょう、村を通らなくなりました。村はどんどん寂しくなっていきました。
村の久作(きゅうさく)という漁師は、村が日ごとに寂しくなる様子を、人一倍心配していました。やがて、あの光の玉の正体を暴いて、村を元通りの賑やかな村にしたいと考えるようになります。
ある闇夜のこと。意を決した久作は一人で舟をこぎ出し、沖へ向かうのでした。

光の玉が浮き沈みしている場所までやってきた久作は、よいしょと網を海へ投げ入れました。すぐに何やら手ごたえを感じたので、ゆっくりと網を舟に引き上げます。するとどうでしょう、網の中で観音さまがキラキラと光っていたのです。
「こりゃたまげた。観音さまじゃ」
久作は観音さまの像を家に持ち帰り、真水で優しく洗いました。そして綺麗な布で拭き上げてみた姿は、それはもう神々しいばかり。
「観音さま。観音さま。村は今、漁に出られんので皆困ってますだ。どうか昔の賑やかな村に戻しておくんなせえ」
そうやって朝夕熱心に久作は祈りました。
久作の祈りが通じたのでしょうか。
それ以降、海の妖しい光の玉は出なくなり、村人は安心して海に出るようになりました。
この噂は近所の村にも届き、観音さまを拝みに来る人たちが大勢増えて、村は前以上に栄えたということです。
むかしむかし、浜名湖(はまなこ)から伊良湖(いらご)へ向かう とちゅうにある赤沢(あかさわ)というぎょそんで、ふしぎなことが おきるようになりました。
月が見えない やみよになると、海の中をぼやーっとした光の玉が ういてはしずみ、ういてはしずみを くりかえすのです。あまりにきみょうな げんしょうなので、村人はこわがってしまいました。
「ああ、おそろしい。あの光の玉は何かとんでもないことがおきる まえぶれなのかもしれん」
「あの光は海のかみさまのたたりで、りょうのふねを しずめるらしいぞ」
村人たちはかおを合わせると、なぞの光の玉の話をはじめます。うわさは おひれがついて大きくなり、海をこわがって りょうに出るふねもなくなってしまいました。
りょうにふねが出なくなると、魚もとれません。だんだん村人のせいかつは くるしくなり、にぎわいも きえてしまいます。村を通っていた たびびとたちも、うわさを耳にしたのでしょう、村を通らなくなりました。村はどんどん さびしくなっていきました。
村の久作(きゅうさく)というりょうしは、村が日ごとに さびしくなるようすを、人いちばい しんぱいしていました。やがて、あの光の玉の正体をあばいて、村をもとどおりの にぎやかな村にしたいと かんがえるようになります。
あるやみよのこと。いをけっした久作は ひとりでふねをこぎ出し、おきへ向かうのでした。

光の玉がうきしずみしている ばしょまでやってきた久作は、よいしょとあみを海へなげ入れました。すぐに何やら手ごたえをかんじたので、ゆっくりとあみを ふねにひき上げます。するとどうでしょう、あみの中で かんのんさまがキラキラと光っていたのです。
「こりゃたまげた。かんのんさまじゃ」
久作はかんのんさまの「ぞう」を家にもちかえり、ま水でやさしく あらいました。そしてきれいなぬので ふき上げてみたすがたは、それはもう こうごうしいばかり。
「かんのんさま。かんのんさま。村はいま、りょうに出られんので みな こまってますだ。どうかむかしの にぎやかな村にもどしておくんなせえ」
そうやってあさゆう ねっしんに久作はいのりました。
久作のいのりが通じたのでしょうか。
それいこう、海のあやしい光の玉は出なくなり、村人はあんしんして 海に出るようになりました。
このうわさは きんじょの村にもとどき、かんのんさまを おがみに来る人たちが おおぜいふえて、村は まえいじょうに さかえたということです。
画像引用:龍祥様(http://www.ryu-sho.co.jp/abouts/)